アフリカ・西アジアで伸びる携帯―携帯電話の普及と契約数
国際電気通信連合(ITU)が毎年公表している携帯電話回線の契約数から、携帯電話の普及状況の各国比較を行ってみました。
図表6-1は、2000年から2021年の21年間における携帯電話回線の契約数の伸びの大きさを示しています。黒く塗られた国々は、他を遥かに上回るペースで携帯電話が普及しています。特にアフリカ諸国と西アジアで濃い色が目立ちます。
これらの地域で利用者の拡大を加速させた背景には、基地局設備の小型化、省電力化に伴う設置・運用コストが低減されたことに加え、極めて安い価格で携帯電話を利用できるビジネスモデルが欧州系の企業によって展開され、定着したことが挙げられます。例えば、イギリス系の会社がM-Pesaのブランドでアフリカや中東、インドで行っているサービスは、個人が端末を購入しなくても個人情報を記録したカード(SIMカード)を買うだけで利用できる上、プリペイド式の料金決済と端末間のショートメールを利用した送金サービスは、金融インフラの脆弱な地域で安全かつ低コストな預金・送金の手段となっており、広く支持を受けています。
図表6-2は、各国の携帯電話の人口カバー率(人口に対する携帯電話契約者の数の割合)が100%を超えた年を示しています。日本が100%を超えた(名目上「一人一台」を達成)のが2011年ですので、表では2010年以前に達成した国を年代ごとに並べています。
初めて100%を達成する国が出た2002年世界の携帯電話の契約総数は約11億6548万回線(現在の中国の7割程度)でした。最も契約者数が多かったのが中国(2億6000万回線)で人口カバー率は16.1%、2位がアメリカ(1億4180万回線)で49.2%、3位が日本(8111万回線)で63.7%でした。アメリカですら5割に届かなかった時代に100%を達成した国は、北欧や東欧の国に集中しています。
その理由として、国の推進政策と関連産業の保護政策が挙げられます。携帯電話は、基地局の設置など初期費用は高くつきますが、回線の維持管理は固定電話よりも低コストで済みます。
厳寒の冬季に作業を余儀なくされる北欧諸国では、いち早く携帯電話への誘導が進み、世界的な携帯電話メーカーの操業が相次ぎました。砂漠に囲まれた環境の中で先駆的な企業が集まるイスラエルや、行政の電子化を徹底するエストニアも、比較的早い段階で人口カバー率100%を達成しています。
図表6-3は、現在(2021年)の各国の人口100人あたりの携帯電話契約者数です。
もはや「人口カバー率100%」は当たり前の状態になっている現在、普及が進んだ国では、競合する通信業者同士の顧客の獲得競争や、複数の端末の契約による利用者増が試みられている状態が続いています。ただ、スマートフォンの普及と、携帯電話サービスに頼らない無料の高速データ通信(公衆無線LAN)の普及が進む中で、個人が複数の回線の契約を求めることは難しくなってきています。
そのような中で、人口に対する携帯電話回線の契約者数が多い国々を上位から見ると、新規の契約を支えているのは、国内の居住者ではなく外国人の観光客ではないかと仮定できます。先述したアフリカにおける「SIMカードだけのプリペイド契約」は、観光客にとっては便利なサービスだからです。
特に、公衆無線LANが十分に発達していないような国や地域では、一度支払えば滞在中インターネットが使える方が楽です。上位にはリゾート地を抱える国が多く並ぶのはそのためではないかと思われます。
日本もロシアと並んで上位に入っていますが、屋外のネットワーク接続を有料の携帯電話回線に頼りがちな国の一つであると言えそうです。