「国際的に見てあまりに人口が多すぎる」東京。移民が普通の社会はやってくるのか…世界ランキングマップ
国連の統計(世界人口白書)によると、世界の人口は80億4500万人になった(2023年)。その中で世界の非識字者率や他国に住んでいる人の数のランキングを地図化してみると、面白いことが見えてくる。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』 (ちくまプリマー新書) より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『ランキングマップ世界地理』#1
移民が「ふつう」の社会へ―人口の国際移動
経済的な理由や政治的な迫害(難民)により、他国に住んでいる人の数は、国連の集計によると世界で約2億7000万人にのぼります(2019年)。移民の受け入れに関する各国の政策の違いや、送り出し国との歴史的・文化的な関係は、定住外国人の数や民族集団の違いに現れます。
図表7-1は、世界各国の定住外国人の数と上位10カ国です。最も多いのはアメリカで、5000万人を超えています。そのうち最も多いのがメキシコ人(約1148万人)で、中国人(約290万人)、インド人(約260万人)が続きます。2位のドイツでは、ポーランド人(約178万人)が最も多く、長らく1位だったトルコ人(約153万人)を抜きました。
3位のサウジアラビアでは、インド人(約266万人)が最も多く、次いでインドネシア人(約167万人)、パキスタン人(約145万人)が多くなっています。
日本の定住外国人人口は、世界26位の約249万9000人で、内訳は中国人(約81万人)、韓国人(約45万人)、フィリピン人(約28万人)となっています。
次に、どの国にどれだけの数のエスニシティ(民族集団)があるのか、過去と現在を比較してみます。図表7-2は、1990年の各国における外国籍の居住者を出身国別に示した地図と上位10カ国の表です。
最も多くを占めるのがウクライナにおけるロシア人です。ウクライナ国籍のロシア人を合わせると、人口4205万人の国の約3割、1197万人がロシア系の住民です。
ロシア人は国の東部と南部に多く、旧ソ連時代はロシア語とウクライナ語が公用語でしたが、ソ連崩壊後、ウクライナ政府はウクライナ語のみを公用語としたため、東部では中央政府(首都キーフ)に対する反発心が強く、後述する独立宣言とロシアへの編入強行につながりました。同じような緊張関係は、旧ソ連のカザフスタンでも見られます。
インドとバングラデシュ、インドとパキスタンの間では同じ言語・民族の人々が国をまたいで暮らしているため、相互の国内の外国人人口が多くなっています。
アフガニスタンでは、1978年から1989年まで続いたソ連の軍事介入の後、再び内戦が激化し、多くの避難民を出しました。避難民の総数は約682万3000人で、1990年の時点で総人口の約35%にあたります。
図表7-3は、2019年の人口の国際移動についてまとめた地図と上位10カ国です。最も多いのが、アメリカにおけるメキシコ人で、1990年から720万人増加しています。
移住者の約半数にあたる650万人が不法就労者と言われています。共和党のトランプ前大統領は、不法移民の強制送還と入国を厳しく制限して物議を醸しました。メキシコ人以外では、中国やインドなど、アジアからの移住者が増加しています。フィリピン人(204万人)、プエルトリコ人(184万人)、エルサルバドル人(142万人)、ベトナム人(135万人)、韓国人(117万人)などが居住人口100万人を超える民族集団です。
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2011年に起きた「アラブの春」運動をきっかけに内戦が勃発したシリアでは、トルコを筆頭に、レバノン(295万人)、ヨルダン(67万人)、総数で約660万人が避難民・難民として国外へ脱出しました。
ウクライナにおけるロシア人の数が1990年から約170万人減少していますが、これは2014年3月に強行されたクリミア自治共和国の独立と、ロシアへの編入によりロシア国籍になった人が多いためです。
西アジアでは、インド人の進出が盛んです。オイルマネーで潤った資金をインフラ建設に積極的に回しているためです。アラブ首長国連邦(約342万人)を筆頭に、サウジアラビア(約244万人)、クウェート(約112万人)と、インド人の建設労働者や技術者が西アジアに滞在しています。
文/伊藤智章 サムネイル/shutterstock
#2『日本の高齢者向け社会保障、10年で40倍に「6割が社会保険料、4割が税金」で賄われる意味とは…世界ランキングマップ』はこちらから
『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』 (ちくまプリマー新書)
伊藤 智章
2023/9/7
¥1,034
304ページ
ISBN:978-4480684608
人口はまだ増える? 自然環境は大丈夫? ランキングと地図で可視化すると、これまでと違った世界がみえてくる。トリビアな話題から深刻な問題まで総ざらい。
■以下の問題、どのくらい答えられますか?(答えは本の中に)
Q:太陽光発電の発電量、第1位の国は?
1 中国 2 アメリカ 3 オーストラリア
Q:一人当たり交通事故の発生件数が多い国は?
1 トリニダード・トバゴ 2 日本 3 モンテネグロ
Q:卵1パックの値段が一番高い国は?
1 スイス 2 韓国 3 エジプト
Q:2番目に人口が多い大都市圏は?
1 ニューヨーク 2 ムンバイ 3 大阪
Q:植林義務によって緑が増えている国は?
1 中国 2 ロシア 3 インド
Q:歴代最高気温を記録した国は?
1 サウジアラビア 2 アメリカ 3 パキスタン
Q:大豆の生産量、第1位の国は?
1 ブラジル 2 カナダ 3 ロシア
【目次】
まえがきに代えて
第1章 世界の自然環境
1 世界の屋根――高い山と長い山脈
2 世界の川――長さ世界一ナイル川の苦悩
3 世界の湖――名実ともに「海」になったカスピ海
4 最高気温と最低気温――地球温暖化と異常気象
5 回帰線に沿って広がる砂漠――砂漠化の進行
6 植林義務がある国もある――森林面積と森林の増減
7 氷に覆われた場所
8 世界の自然災害――地震・水害・火山災害
第2章 人口と都市
1 2秒で一人増える国は?――人口増加する地域
2 子どもが生まれにくい国々――合計特殊出生率の変化
3 リスクにさらされる子どもの命――乳幼児死亡率の変化
4 飢える人々――栄養不足人口率と栄養不足人口
5 SDGsの目標のひとつ――女性の教育水準と結婚年齢
6 東京は世界的にみても人多すぎ――大都市圏の拡大と人口増加
7 移民が「ふつう」の社会へ――人口の国際移動
第3章 産地は変化する
1 日本は米の生産量10位以内にいるのか――米の生産国とその変化
2 小麦の最大の輸出国は?――小麦の生産と貿易の変化
3 需要が増える中国への対応――大豆の生産と貿易の変化
4 綿花の貿易はアパレルを映し出す――綿花の生産と貿易の変化
5 飼育頭数ランキング3位 羊――羊の飼育頭数と羊毛の貿易の変化
6 チーズ・バターのゆくえ――牛乳および乳製品の生産と貿易
7 とうもろこしは実は用途が多い――とうもろこしの生産と貿易の推移
8 「豊かさ」の象徴――牛肉の生産と貿易の推移
9 魚は限りある資源――漁獲量の変化
10 日本から中国へ――木材の生産と貿易
第4章 鉄鋼資源とエネルギー
1 石炭の産出が増えている国は――石炭の生産と貿易
2 中国への石油輸入が増えた地域は――原油の生産と貿易の変化
3 国境を越えるパイプライン――天然ガスの生産と貿易
4 一番伸びている再生可能エネルギーは?
5 どうする?原子力――ウランの生産と原子力発電の現状
6 「鉄は産業のコメ」――鉄鉱石と鉄鋼の生産および流通
7 アルミの街はどこにある――ボーキサイトの産出とアルミニウムの生産
8 意外な産出1位の国は?――銅鉱石の産出と銅地金の生産
第5章 サービス産業と交通インフラ
1 20年で輸出額が一番増えた国は――世界の貿易と輸出入の伸び
2 海外旅行、コロナの影響は――旅行客の移動と観光収入の変化
3 宿泊施設の客室が一番増えた国は――宿泊施設数と宿泊者数の変化
4 アメリカの鉄道距離が減少した理由――鉄道の営業距離と輸送量の変化
5 一番乗降が多い空港は?――空港の数と利用客・貨物輸送量の多い空港
6 交通事故が多い国――道路の過密度とそのリスク
7 世界の船――船舶保有量と造船竣工
第6章 生活と文化
1 国によって働き方はこんな違う――労働時間の長さ
2 スイスの卵の値段は日本の何倍?――食料品の価格
3 世界の住宅事情――持ち家・賃貸補助・公営住宅
4 社会保障費の国際比較――日本よりも多い国・少ない国
5 活字メディアの現状――新聞と出版の国際比較
6 アフリカ・西アジアで伸びる携帯――携帯電話の普及と契約数
7 三大世界宗教の信者数