移民が「ふつう」の社会へ―人口の国際移動

経済的な理由や政治的な迫害(難民)により、他国に住んでいる人の数は、国連の集計によると世界で約2億7000万人にのぼります(2019年)。移民の受け入れに関する各国の政策の違いや、送り出し国との歴史的・文化的な関係は、定住外国人の数や民族集団の違いに現れます。

図表7-1は、世界各国の定住外国人の数と上位10カ国です。最も多いのはアメリカで、5000万人を超えています。そのうち最も多いのがメキシコ人(約1148万人)で、中国人(約290万人)、インド人(約260万人)が続きます。2位のドイツでは、ポーランド人(約178万人)が最も多く、長らく1位だったトルコ人(約153万人)を抜きました。

3位のサウジアラビアでは、インド人(約266万人)が最も多く、次いでインドネシア人(約167万人)、パキスタン人(約145万人)が多くなっています。

日本の定住外国人人口は、世界26位の約249万9000人で、内訳は中国人(約81万人)、韓国人(約45万人)、フィリピン人(約28万人)となっています。

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図7-1 外国籍住民の数と総人口に占める外国籍人口の割合(2019年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

次に、どの国にどれだけの数のエスニシティ(民族集団)があるのか、過去と現在を比較してみます。図表7-2は、1990年の各国における外国籍の居住者を出身国別に示した地図と上位10カ国の表です。

最も多くを占めるのがウクライナにおけるロシア人です。ウクライナ国籍のロシア人を合わせると、人口4205万人の国の約3割、1197万人がロシア系の住民です。

ロシア人は国の東部と南部に多く、旧ソ連時代はロシア語とウクライナ語が公用語でしたが、ソ連崩壊後、ウクライナ政府はウクライナ語のみを公用語としたため、東部では中央政府(首都キーフ)に対する反発心が強く、後述する独立宣言とロシアへの編入強行につながりました。同じような緊張関係は、旧ソ連のカザフスタンでも見られます。
インドとバングラデシュ、インドとパキスタンの間では同じ言語・民族の人々が国をまたいで暮らしているため、相互の国内の外国人人口が多くなっています。

アフガニスタンでは、1978年から1989年まで続いたソ連の軍事介入の後、再び内戦が激化し、多くの避難民を出しました。避難民の総数は約682万3000人で、1990年の時点で総人口の約35%にあたります。

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図7-2 外国への移住者の移動先と居住者数(1990年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

図表7-3は、2019年の人口の国際移動についてまとめた地図と上位10カ国です。最も多いのが、アメリカにおけるメキシコ人で、1990年から720万人増加しています。

移住者の約半数にあたる650万人が不法就労者と言われています。共和党のトランプ前大統領は、不法移民の強制送還と入国を厳しく制限して物議を醸しました。メキシコ人以外では、中国やインドなど、アジアからの移住者が増加しています。フィリピン人(204万人)、プエルトリコ人(184万人)、エルサルバドル人(142万人)、ベトナム人(135万人)、韓国人(117万人)などが居住人口100万人を超える民族集団です。

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図7-3 外国への移住者の移動先と居住者数(2019年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より
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2011年に起きた「アラブの春」運動をきっかけに内戦が勃発したシリアでは、トルコを筆頭に、レバノン(295万人)、ヨルダン(67万人)、総数で約660万人が避難民・難民として国外へ脱出しました。

ウクライナにおけるロシア人の数が1990年から約170万人減少していますが、これは2014年3月に強行されたクリミア自治共和国の独立と、ロシアへの編入によりロシア国籍になった人が多いためです。

西アジアでは、インド人の進出が盛んです。オイルマネーで潤った資金をインフラ建設に積極的に回しているためです。アラブ首長国連邦(約342万人)を筆頭に、サウジアラビア(約244万人)、クウェート(約112万人)と、インド人の建設労働者や技術者が西アジアに滞在しています。


文/伊藤智章 サムネイル/shutterstock

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『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』 (ちくまプリマー新書) 
伊藤 智章
「国際的に見てあまりに人口が多すぎる」東京。移民が普通の社会はやってくるのか…世界ランキングマップ_10
2023/9/7
¥1,034
304ページ
ISBN:978-4480684608
人口はまだ増える? 自然環境は大丈夫? ランキングと地図で可視化すると、これまでと違った世界がみえてくる。トリビアな話題から深刻な問題まで総ざらい。

■以下の問題、どのくらい答えられますか?(答えは本の中に)

Q:太陽光発電の発電量、第1位の国は?
1 中国  2 アメリカ 3 オーストラリア

Q:一人当たり交通事故の発生件数が多い国は?
1 トリニダード・トバゴ 2 日本 3 モンテネグロ

Q:卵1パックの値段が一番高い国は?
1 スイス 2 韓国 3 エジプト

Q:2番目に人口が多い大都市圏は?
1 ニューヨーク  2 ムンバイ 3 大阪

Q:植林義務によって緑が増えている国は?
1 中国 2 ロシア 3 インド
Q:歴代最高気温を記録した国は?
1 サウジアラビア 2 アメリカ 3 パキスタン

Q:大豆の生産量、第1位の国は?
1 ブラジル  2 カナダ 3 ロシア

【目次】
まえがきに代えて

第1章 世界の自然環境
1 世界の屋根――高い山と長い山脈
2 世界の川――長さ世界一ナイル川の苦悩
3 世界の湖――名実ともに「海」になったカスピ海
4 最高気温と最低気温――地球温暖化と異常気象
5 回帰線に沿って広がる砂漠――砂漠化の進行
6 植林義務がある国もある――森林面積と森林の増減
7 氷に覆われた場所
8 世界の自然災害――地震・水害・火山災害

第2章 人口と都市
1 2秒で一人増える国は?――人口増加する地域
2 子どもが生まれにくい国々――合計特殊出生率の変化
3 リスクにさらされる子どもの命――乳幼児死亡率の変化
4 飢える人々――栄養不足人口率と栄養不足人口
5 SDGsの目標のひとつ――女性の教育水準と結婚年齢
6 東京は世界的にみても人多すぎ――大都市圏の拡大と人口増加
7 移民が「ふつう」の社会へ――人口の国際移動

第3章 産地は変化する 
1 日本は米の生産量10位以内にいるのか――米の生産国とその変化
2 小麦の最大の輸出国は?――小麦の生産と貿易の変化
3 需要が増える中国への対応――大豆の生産と貿易の変化
4 綿花の貿易はアパレルを映し出す――綿花の生産と貿易の変化
5 飼育頭数ランキング3位 羊――羊の飼育頭数と羊毛の貿易の変化
6 チーズ・バターのゆくえ――牛乳および乳製品の生産と貿易
7 とうもろこしは実は用途が多い――とうもろこしの生産と貿易の推移
8 「豊かさ」の象徴――牛肉の生産と貿易の推移
9 魚は限りある資源――漁獲量の変化
10 日本から中国へ――木材の生産と貿易

第4章 鉄鋼資源とエネルギー 
1 石炭の産出が増えている国は――石炭の生産と貿易
2 中国への石油輸入が増えた地域は――原油の生産と貿易の変化
3 国境を越えるパイプライン――天然ガスの生産と貿易
4 一番伸びている再生可能エネルギーは?
5 どうする?原子力――ウランの生産と原子力発電の現状
6 「鉄は産業のコメ」――鉄鉱石と鉄鋼の生産および流通
7 アルミの街はどこにある――ボーキサイトの産出とアルミニウムの生産
8 意外な産出1位の国は?――銅鉱石の産出と銅地金の生産

第5章 サービス産業と交通インフラ
1 20年で輸出額が一番増えた国は――世界の貿易と輸出入の伸び
2 海外旅行、コロナの影響は――旅行客の移動と観光収入の変化
3 宿泊施設の客室が一番増えた国は――宿泊施設数と宿泊者数の変化
4 アメリカの鉄道距離が減少した理由――鉄道の営業距離と輸送量の変化
5 一番乗降が多い空港は?――空港の数と利用客・貨物輸送量の多い空港
6 交通事故が多い国――道路の過密度とそのリスク
7 世界の船――船舶保有量と造船竣工

第6章 生活と文化
1 国によって働き方はこんな違う――労働時間の長さ
2 スイスの卵の値段は日本の何倍?――食料品の価格
3 世界の住宅事情――持ち家・賃貸補助・公営住宅
4 社会保障費の国際比較――日本よりも多い国・少ない国
5 活字メディアの現状――新聞と出版の国際比較
6 アフリカ・西アジアで伸びる携帯――携帯電話の普及と契約数
7 三大世界宗教の信者数 
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