「しあわせ」とは「いまそこにあるものにありがたみを感じること」
「ボク、釣り得意だよ! パパと釣りしたこともあるもんね!」
得意げなチビのセリフに、僕は内心苦笑する。
「おもちゃの釣竿でクチボソを釣っただけ(笑)」
ひろおじちゃんに小声で説明する。
おもちゃの竿を使ったクチボソ釣りも、本格的なバス釣りもチビにとっちゃあいっしょだよな。
近所の小川でのザリガニ釣りも、山の中の湖で釣ることも本来的には同じこと。
それなのに大人になると、お金のかかる派手なことほど本物って感じがしちゃってさ。
「生き物を飼いたい」ってせがまれたときにも、僕はペットショップのハムスターや、カメを想像したけど、実際チビはお庭の土の中から出てきたコガネムシの幼虫で大満足だった。
そのピュアな感覚はどんな大金よりも人生を豊かにしてくれるはず。
見てくれの派手さや、人の評判ばかりを気にしていると、お金なんていくらあってもきりがない。
どんなに物をもっていても、いつまでたってもしあわせにはなれないだろう。
「しあわせ」とは「いまそこにあるものにありがたみを感じること」なんだよね、チビ。
自然の美しさ、命の大切さ、本当のしあわせ……、僕がチビに伝えたいと思っていることの多くは、実はチビが生まれて、チビに気づかされたことばかりなんだ。
★ふりかえり
チビが小学生になってからは、海釣りに行くようになりました。週末に朝早く起きて、釣り船に乗ってアジやらキスやらをよく釣りに行きました。自分が釣った魚は自分でさばかせました。小学生にして魚がおろせるようになりました。中学生になり、釣りに付き合うのをおっくうがられるようになってから、私もとんと釣りに出ていません。当時、自分の趣味は釣りだと思ってましたけど、チビが大物を釣り上げて喜ぶ顔を見たいだけだったんですね。