国家プロジェクトで創薬を進める台湾
台湾の受託会社との開発を始めて知ったのだが、台湾では、今後タンパク質創薬が増えてくることを見越して、タンパク質製剤を作る一連のシステムの基礎を、〝国家プロジェクト〞として国家予算でまず作り、その後そこからたくさんの民間会社をスピンアウトさせていた。
そのため、薬を作るうえで違うステップを請け負う会社同士がよく連携しており、そうした会社で実際に作業を行う人たちは、薬を作るすべての工程が明確に見通せている。
残念ながら、日本ではこれだけ多くの製薬会社が癌の抗体医療(もちろん、これもタンパク質製剤の一つだ)に力を入れているのに、タンパク質製剤開発のためのシステマチックなインフラが国内にはほとんどない。
そのためだろう、台湾のこの受託会社も、日本の製薬会社からの依頼がとても多いらしい。実際に創薬の現場に中心責任者として携わってみて、創薬事業が医学の研究といかに異なるかが身に染みてわかった。
研究者としての視点ではなんの問題もないところが、創薬の観点で見ると「全然ダメ」ということは何回もあった。
研究と創薬では、普段使う言葉さえも違う。日帰りで台湾の工場に話し合いに行ったり、台湾の技術者とオンラインで何回も会議をしたりもした。どちらもネイティブではない英語だから、これがなかなか難航する。
しかし、こちらが本気でがんばると、台湾の人たちも非常に熱心に応えてくれた。共同作業を続けるうちに、強い信頼関係が築けたと思う。
そうして約3年間、紆余曲折があったが、なんとか大量生産と精製の方法を決定するところまでこぎ着けた。
X社の人も大変だったと思う。まったくの専門外の人たちが、なんとか私たちについて来ようと必死に勉強してくれたのだ。X社の人たちは、若い人から年配の方まで大変な努力家ぞろいだった。こういう人たちが日本の経済を支えていると思うと本当に心強い。
私自身も勉強になった。いまや研究者と薬剤開発者の両方の視点を持つことができ、これは今後ネコ薬に続き人薬を開発するに当たっても、非常に大きな財産となるはずだ。