余命2週間、腎不全末期だった猫が1年以上も延命。驚きの効果を発揮したタンパク質「AIM」が猫に初めて投与された日
すべての愛猫家にとってこれほど喜ばしいことはない。おそらく今後、猫の寿命は現在の15歳から大きく延び、2倍近くになる日が来る。その鍵を握るのが東京大学で宮崎徹氏が研究しているタンパク質「AIM」だ。2年前に発売されベストセラーになった『猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』から、初めてネコに「AIM」が投与された瞬間を一部抜粋し紹介する。
猫が30歳まで生きる日 #1
なんとかしてAIMを
ネコの腎臓薬として開発したい
しかしキジちゃんの場合は、AIMを投与した後、しばらくの間元気であった。そして、再び元気がなくなり、次にAIMを投与したのは1カ月後だった。
ヒトの透析の場合は1週間に数回行わねばならない。それからすると、1カ月というのは驚異的な長さだ。
なぜ、キジちゃんの場合、AIMの効果がこんなに長続きしたのかは、まだよくわからない。しかし、事実として、その後月単位の間隔(ときには3カ月空いた)でAIMを注射することによって、余命1〜2週間と宣告され、目も開けられないほど弱っていたキジちゃんが、それから1年以上も生きていた。
ただ、研究室で培養できるAIMの分量には限りがある。
そのため、しばらくAIMを投与することができないでいたら、残念ながらキジちゃんは、あるとき急激に状態が悪くなって亡くなってしまった。「ずっと定期的にAIMを注射することができていたら…」と、いまでも悔やまれる。
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キジちゃんの治療にはAIMを1回当たり2㎎、5回の投与で計10㎎を必要としていたが、大学の研究室で10㎎のAIMを作るのは大変な労力と研究費がかかっていた。さらに、キジちゃん以外のネコにも投与をしていたし、ほかの実験にもたくさんAIMを使うようになっていた。キジちゃんのように状態が急変したネコのために、10㎎のAIMをストックしておくことはできなかったのだ。
キジちゃんのオーナーさんは事情を理解してくださったが、私も小林先生も「なんとかしてAIMをネコの腎臓薬として開発したい」という思いになった。
#2に続く
ネコの寿命はいまの倍の30歳くらいになる
さまざまな病気とAIMのかかわり
AIMのネコ薬の開発作業
文/宮崎徹
キジちゃん写真/『猫が30歳まで生きる日』(時事通信社)提供
最終ページイメージ写真/shutterstock
『猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』(時事通信社)
宮崎 徹
2021年8月4日
¥1,980
244ページ
ISBN:978-4788717558
世紀の大発見「AIM」で、猫の寿命が2倍に!
しかも、人間のさまざまな病気にも活用可能。
人も猫も、もっと長生きできる未来が来る。
日本では1000万頭近い猫が飼われているといわれますが、その多くが腎臓病で亡くなっています。猫に塩分を控えた食事をさせて日々気をつけていても、加齢とともに腎機能は必ず低下してしまいます。そんな猫の腎臓病の原因は、これまでまったく不明でした。
そんななか、宮崎徹先生が血液中のタンパク質「AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)」が急性腎不全を治癒させる機能を持つことを解明しました。猫は、このAIMが正常に機能しないために腎臓病にかかることもわかったのです。
この AIM を利用して猫に処方すれば、腎臓病の予防になり、猫の寿命が大幅に延び、現在の猫の平均寿命である15歳の2倍である、30歳まで生きることも可能であるとされています。
──これは、愛猫家にとっては、とてつもない朗報です。さらに、AIMは、猫だけでなく人間にも効き、また腎臓病だけでなくアルツハイマー型認知症や自己免疫疾患など、これまで〈治せない〉と言われていた病気にも活用が期待されます。
本書は、最新医療の研究現場のリアルを伝えます。