AIの台頭で、「能力の拡張願望」が増幅する

身体的特徴や能力をゲノム編集により操作・拡張する技術を手にした人間は、この技術をどのように扱うかが問われるようになるだろう。

特に2030年代以降はAIの台頭により、人間の存在意義が危ぶまれることになる。そこで人類はAIに対して優位性を保とうと、潜在的に持っていた拡張願望を増幅させることが考えられる。

こうした願望を叶える上で、筋肉を増強する遺伝子ドーピングと共に大いに利用される可能性があるのが、人工材料を生体へ適用する「バイオマテリアル」の技術である。

この技術は診断や治療にとどまらず、人工臓器や再生医療などにおいても実用化が進められている。

2030年代後半には、五感のようなヒトの感覚について、喪失した場合には補い、さらには超人的レベルを達成するように補強するバイオミメティクス材料が実現するという予測もある。

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こうした技術が発展すれば、将来的に、人類は自己の能力の拡張に応用する可能性がある。

たとえば、自分の両腕に加えた複数の腕を同時に動かしたり、腕力を増強して巨大な物を軽々と持ち上げられるようになったり、遥か遠方にあるものを見たり聞いたりできる超視力や超聴力のように、今では信じがたい能力を未来の人類が身につけていることも想定される。

「iPS細胞」の応用による臓器、組織の作製・再生技術もまた、こうした願望を叶える上で重要な役割を果たすことになるだろう。

将来的には、人工的な臓器を作製し、失われた組織や臓器を再生させることが当たり前になり、さらに元来の臓器より強化される可能性もある。

こうした拡張の願望は、自らだけでなく「子」へも向けられる恐れがある。人々がゲノム編集技術を利用し、デザイナーベビーを量産するようになるとしたら、ついに神の領域を侵食することになる。