防衛省はフィンランドの「緑の悪魔」導入を決定

防衛省は、陸上自衛隊が導入する次期装輪装甲車(人員輸送型)に、AMVを選定したと2022年12月に発表した。選定されたAMVは、“Armored Modular Vehicle”(装甲モジュラー車輛)の略称であり、96式装輪装甲車の後継車両である。

フィンランドの総合防衛企業パトリア社製であるが、国内防衛生産、技術基盤への裨益にかんがみ、日本企業受注によるライセンス生産が追求されることとなっている。

パトリア社はこれまで、技術移転に積極的な姿勢を示している。日本で製造されたAMVの海外移転という可能性も、一部では取り沙汰されている。

防衛省は、装輪装甲車の開発に際して、防御力を重視していた。だが、96式装輪装甲車の開発中止を受けて、次期装輪装甲車の導入計画がスタートした。

競合相手は、三菱重工業によって試作された機動装甲車だったが、基本性能と経費の観点から、AMVに軍配が上がった。航空新聞社の報道によれば、基本性能の評価の違いは、防御力と乗員の生存性についての評価の差によって生じたのではないかと推測されるという。

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AMVはその高い防御性から、「緑の悪魔(Green Devil)」とも呼ばれている。これまでにアフガニスタンなどで実戦投入されているが、対戦車火器や地雷による攻撃にもかかわらず、軽微な損害で任務を継続し、イスラム原理主義武装勢力から、「緑の悪魔」と恐れられたという。

用途としては、戦闘部隊や戦闘支援部隊などに装備し、敵の脅威下における戦場機動、人員輸送などに使用するとともに、国際平和協力活動における車列警護などが想定されている。

AMVの導入を受けて、2022年12月には藤村和広駐フィンランド大使が、2023年5月には小野田紀美防衛大臣政務官が、相次いで同社を訪問している。

同社は2021年にパトリア・ジャパンを設立し、日本及びアジア市場への進出の足掛かりを築こうとしているが、陸上自衛隊から契約を受注し、早速結果を出した格好となった。

陸上自衛隊は、次期装輪装甲車を航空自衛隊のC‐2輸送機で空輸することも想定している。

より核心的な用途としては、島嶼防衛が挙げられる。南西諸島での有事においてAMVが活用されれば、フィンランドの防衛技術によって日本の領土が防衛されたということになるかもしれない。

文/村上政俊 写真/shutterstock

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