女性の社会進出と育児負担
なぜ少子化が進むのか。人口学者が指摘するのは、女性の教育と社会進出だ。男女格差が縮小するのは社会にとって大きな前進だが、女性にばかり育児の負担がかかる環境が変わらないと、働きながら望むように子どもを産み育てられない。
「フルタイムで働きながら子育てなんて考えただけで疲れる」
バンコクの女性大学院生(35)は嘆く。タイの20年の出生率は1.5で低出生率のわなの瀬戸際に立つ。
タイ女性の大学進学率は58%で男性の41%を上回る。英HSBCによると、大部分の国民が高等教育を受ける国で高出生率の国は一つもない。だが女性の教育を後戻りさせるわけにはいかない。
福祉国家フィンランドも出生率が10年の1.87から急減し、20年は1.37。子育て支援が手厚いはずの同国の急降下は大きな謎とされる。非政府組織(NGO)の人口問題連盟の調査ディレクター、ベンラ・ベリ氏は「女性は男性にもっと平等に家庭に参加してほしいと考えている」と指摘する。
少子化克服は「百年の計」
ヒントはどこにあるのか。少子化対策の優等生といわれてきたフランス。ここ数年は出生率が下がりつつあるが、それでも1.8台を維持する。子育て支援などの家族関係社会支出は国内総生産(GDP)比で2.9%と日本の約2倍だ。
きっかけは1870年の普仏戦争だ。直前まで欧州で人口最大だった仏がドイツに逆転され、敗戦も喫した。仏が少子化対策を「国家百年の計」とした背景には、この苦い記憶がある。仏は家族のあり方も大きく変え、1999年に事実婚制度PACSを導入した。2019年に仏で生まれた子の6割が婚外子だ。
儒教思想が根強い韓国でも21年4月、家族の定義を見直す方針を打ち出した。婚姻や血縁などによる家族の定義を民法から削除し、事実婚カップルらも家族と認める。制度を変えても社会に根付くには時間がかかるため、発想の転換を急ぐ。
「産めよ殖やせよ」と声高に叫ぶ時代ではない。それでも安心して子育てができる社会をつくるには一定の出生率の維持が欠かせない。
社会全体の生産性を上げなければ経済や社会保障は縮小し、少子化が一段と加速する悪循環に陥りかねない。百年の計をいまこそスタートさせるときだ。
#2 性的少数者を受け入れている国ではGDP上昇も…欧米で進む多様な家族の形を認める社会がもたらすもの
#3 【縮小ニッポンの本音】「親より豊か」は1割どまり、「家計が苦しい子持ち家庭」は7割、という統計の現実