ある日突然、布団から出られなくなる

それからしばらくして、彼はうつ病で倒れた。朝になっても体に力が入らず、起きられなかった。無断欠勤だった。しばらく、なにもできず布団のなかにいた。何度も携帯電話が遠くで鳴っているのが聞こえた。昼ごろになってようやっと布団から出られた。身も心も重たかったが、会社に電話をかけなければならなかった。

「すみません、寝坊しちゃって。ちょっと休めば大丈夫なので、明日は出勤します」

働きはじめてから10年が経ったが、仕事に遅刻したことも早退したことも、休みさえとったことのなかった彼だった。

翌日も、やはり体が動かなかった。職場に事情を説明すると病院に行くように言われた。

体が動かないという問題から、彼は内科を受診した。しかし、診察の結果は「異常なし」。彼の話を親切に聞いてくれた医師は、精神科に行って相談するように助言してくれた。

「強い義務感」と「情緒的消耗感」が徐々に体を蝕み…“虐待サバイバー”が燃え尽き症候群を発症しやすい理由_2

精神科では「うつ病」と診断された。抗うつ薬を処方されて、しばらく経過観察していくことになった。医師も会社も休職を勧めた。彼はこれに従った。

私は、彼の話を聞きながら考えていた。強い義務感、緊張感、焦燥感、そして消耗感。さらに、自己肯定感がない、もしくは極端に低い。また、抗うつ薬があまり効かず、治りにくい……。

緊張の糸が、ぷつりと切れてしまったきりで動かなくなってしまったかのような彼の容態は、「燃え尽き症候群(Burnout Syndrome)」に違いなかった。