故郷・鳥取をPRする

さらに3つ目の夢もある。川口氏はこう語る。

「この自分の移住体験を通して、もっともっと鳥取の魅力を発信したいと思います。移住前から市や県の担当の方には、私たちにできることなら何でもしますと伝えてあります」

するとその声が平井伸治県知事に届き、2022年1月には県から移住とスポーツ普及のために「とっとりへ ウェルカニスポーツ総合アンバサダー」に任命された。

鳥取県としても、移住人口の獲得は至上命題なのだ。

全国最少人口県・故郷の鳥取に移住した元プロ野球選手・川口和久が農業を始めて手に入れた3つの新たな夢_4
毎年8月に開催される鳥取しゃんしゃん祭り

全国の都道府県の中で最も人口が少ない鳥取県では、1995年の約61.5万人から2020年には55.3万人へと長期人口減少傾向が止まらない。鳥取県人口政策課の担当者は言う。

「平井知事の就任直後から移住者獲得に向けてさまざまな対策を講じてきました」

そこに登場した川口夫妻は、まさに鳥取県における地方創生の大きな原動力であり、期待の星でもある。

全国最少人口県・故郷の鳥取に移住した元プロ野球選手・川口和久が農業を始めて手に入れた3つの新たな夢_5
日本最大の砂丘・鳥取砂丘

その登場とともに、朗報もある。

総務省の発表によれば、川口氏が移住した2021年の人口移動報告では、東京都から鳥取県への移住の増加率は、コロナ前の19年と比べると25.1%の増加を記録。長野県の19.6%を抜いて、全国一位となった。ところがその実数では713人と全国最下位でもある。つまり19年以前の実数が少なく、それでいてコロナ禍での人気が高まったというデータだ。

このコロナ禍での鳥取県への移住人気の高まりは、移住支援の細やかさにあると言われている。2007年度以降、県では移住の相談機能や補助制度をさまざまに充実させてきた。15年度からは移住者は目標を上回り毎年2000人ペースで増えている。22年には正社員の副業を認めた全日空空輸と協力して、客室乗務員に県庁や地元の放送局での仕事と移住を斡旋してもいる。

さらに川口氏が自らの移住体験をYouTube 等で発信していけば、こんなに強力なPRもない。川口氏はこう語る。

「若い人たちに、人生の選択肢はいろいろあることを、還暦を過ぎてからの移住生活を通して伝えたいです。故郷にはこんなに豊かな自然と暮らしがある。農業にはこんな喜びがある。それを示していきたいと思っています」