移住1年目は80点

さて、2023年には、川口夫妻の移住も2年目に入っていた。

当初の1年間のことを、どんな思いで振り返るのか。川口氏はテレビのインタビューでこう語った。

「移住1年目は自分の中ではだいたい80点。自分としては充実感があります。2年目を迎える23年も同じリズムで生活すると思います。楽しく歳をとっていきたいし、年齢を重ねて体力は落ちていくけれど、その分経験とか新しいことへの挑戦とか、そういうことをやると歳をとらないんじゃないかと思います」

そして冬場に始めたのは、鳥取県東部の若桜町での味噌づくりだった。

全国最少人口県・故郷の鳥取に移住した元プロ野球選手・川口和久が農業を始めて手に入れた3つの新たな夢_6
鳥取県若桜町
すべての画像を見る

自分で育てた米と、県内三朝町でとれる甘くて美味しい「神倉大豆」。そして味の決め手となる塩は「大山の藻塩」。全て鳥取産の材料を使って、川口氏は4日間かけて手製の味噌を仕込んだ。大粒の汗をかきながら作業が終了すると、笑顔とともに川口氏はこう語った。

「できあがるのは1年後です。田植えして稲刈りしてちょっと落ち着いたころ、10月後半にできあがってくるはず。楽しみですね」

もちろん、22年の秋には自分で収穫した新米を食べて、至福の味も経験している。

「小さな稲穂がついたときは本当に嬉しくて……。思わず写メ撮って、巨人時代にお世話になった原辰徳監督に送りました。収穫したコメも食べましたが、今まではお腹を満たすだけのコメがこんなに甘いと思わなかった」
(フライデーデジタル、2022年11月5日号)

川口氏は、移住と米づくりを通しての生活の変化をこう語る。

「野球も人生も流れがあります。野球にたとえると、いまは六イニングス目。新たなステージで自分の流れをつくっていくという感じかな」

まさにいま、川口夫妻の「メークドラマ」は始まったところだ。

#1
#2

文/神山典士

『「我がまち」からの地方創生』(平凡社)
石破茂 神山典士
全国最少人口県・故郷の鳥取に移住した元プロ野球選手・川口和久が農業を始めて手に入れた3つの新たな夢_7
2023年8月16日
¥1,012
200ページ
ISBN:978-4-582-86035-1
コロナ禍以降、東京二三区(特別区)で転出超過となるなど、急速に地方分散へと動き始めている日本社会。

こうした東京一極集中から地方分散型社会へと向かう流れの中で、「自分たちがつくる未来」への意識を止めないために、シニア世代、女性、ロック歌手、元プロ野球選手など、さまざまな来歴を持つプレイヤーの活躍を通して、地方創生の本質・真髄とは何かを改めて問う。

全国各地の「希望の点」を「線」や「面」へと広げるために、初代地方創生大臣・石破茂が語る!
amazon