精神科ベッド数が断トツの世界一
日本の医療において、「開業医が多いこと」と並んでもう一つ非常にいびつな構造がある。それは「精神科病院が多いこと」である。
あまり知られていないが、日本は世界の中で精神科病院がきわめて多い国なのである。しかも「入院型」の病院が多いのだ。
日本に精神疾患患者がそれだけ多いというわけではない。世界全体が精神疾患の治療を「入院型」から、「通院型」へ切り替えているのに、日本だけが「入院型」の治療を続けているからである。
日本の精神科の病床は32万3500床にのぼり、全病床のうち、21.6%は精神科なのである(2021年10月時点)。
これは世界的に見て異常な多さなのだ。
OECD加盟国の中で、人口1000人あたりの精神科ベッド数は、日本が2.6床で断トツの1位。2位のベルギーは1.4床なので、ダブルスコアに近い差がある(表17)。
そしてOECDの平均は、0.7床しかない。つまり、日本はOECD諸国の平均よりも、約3.5倍の精神科病床を抱えているのである。
そして、日本の精神科病床にはもう一つ大きな特徴がある。
それは民間の病院が非常に多いということである。精神科病床のうち、9割が民間のものなのである。OECD諸国の精神科病床のほとんどは公的病院なので、日本のそれは明らかに突出しているのだ。ここにも「開業医の利権」が大きく絡んでいるのだ。
日本では「精神科の病床が儲かる」
「民間の精神科病床が多い」ということは、日本では「精神科の病床が儲かる」と見ていい。
もし、儲からないのであれば、民間の精神科の病床がこれほど多くなるはずがない。
精神科の病床というのは、世界的に見ると1960年代から急激に減少し始めた。薬物治療の発達などで、これまで主流だった入院隔離から、通院治療、社会復帰を促す方向に舵を切ったからだ。
しかし、日本では逆に1960年代以降、精神科の病床が増えている。
なぜだろうか?
日本は戦前から1950年代まで結核大国であり、民間の結核療養所が多々あった。結核は感染症であり、戦前は不治の病とされ、発病してから死ぬまでの間に、隔離療養する施設が必要だったのだ。が、戦後は抗生物質による治療法が普及し、ほとんどの人が完治するようになった。そのため、療養施設の必要性がなくなった。
その大量の療養施設が、精神科に衣替えした経緯がある。
そして、その大量の日本の精神科病院は、世界の国々が通院治療に切り替えてからも、たくさんの病床を抱え入院治療を継続し続けてきた。
それは、民間の精神科病院の既得権益を守るためであると言っていい。
「国民の健康よりも、民間病院の権益を優先する」
それが、日本の医療の根本姿勢なのである。