すごみ4 : この時代に驚異の価格設定
4つめのすごみは驚異の価格の実現だ。「ほっともっと」の商品は、全体的に業界の水準と比べて、原価率が高く設定されているという。それだけ商品1個当たりの利益を下げてでも、安くて美味しい弁当を提供する方針が取られている。
特に人気第1位の「のり弁」は、戦略商品として、380円という驚異の低価格が実現されている。白身魚のフライ、特別に長いちくわ天、たっぷりのきんぴらと漬物、箸で食べやすい特殊な加工をした海苔、おかか昆布、こだわりのご飯、という構成だ。この「のり弁当シリーズ」は、年間約3000万食が販売され、ファンの心と舌を掴んで放さない看板商品となっている。
あらゆるものが値上げしている昨今で、驚異の価格で提供され続けている「のり弁」。どうしてこの価格で提供できているのか、ほっともっと広報に話を聞いた。
「のり弁だけが売れ続けてしまった場合、当社の利益が厳しくなるくらい、本当にギリギリの価格設定でやらせていただいています。そのためお立ち寄りの際はぜひ、のり弁以外もご賞味いただきたいです(笑)。固定ファンに支えていただいてる商品ですが、本音を言うと、のり弁を入り口に当社のファンになっていただき、その他のお弁当を買っていただけるようになると嬉しいです」(広報阪東氏)
500円前後の食事は大激戦区
立地や人流を分析する出店戦略、調達戦略、自社工場による生産戦略、そしてマスメディアやアプリ・TikTokなどを活用するプロモーション戦略など、全国に約2500もの店を展開する「ほっともっと」の成功は、様々な戦略によって支えられている。ただ、その中心にある強みは、幾つものすごみに裏打ちされた「商品力」にこそあるだろう。
昨今、「500円前後の食事」という市場は、多種多様で強力なライバルたちがひしめく激戦区になっている。弁当屋という同業のライバルはもちろん、スーパーやコンビニの弁当や総菜、進化著しい冷凍食品やカップ麺、ひと手間の調理でできるレトルトパック。外食サービスでは、ハンバーガー、牛丼、定食屋もあるし、デリバリーサービスも発展を続けている。そうした多種多様なライバルとの競争に、ただ安くて早いだけでは、勝ち続けることはできない。
競争を勝ち抜くには、マーケティングで「コア・コンピタンス」と呼ばれる、他社が真似することができない「競争力の源」が必要となる。こだわりの美味しさと安さを両立した商品力を支える「すごみ」こそ、「ほっともっと」のコア・コンピタンスになっている。
取材・文/永井竜之介
写真/石田壮一