バービーと「原爆の父」
アメリカはいま、好景気だ。日本の80年代がそうであったように、世の中の「体温」が高い時、人々は往々にしてノリがよくなりすぎる――。世界的に有名な着せ替え人形バービーの実写映画『バービー』が日本で物議を醸している。ただし、原因は映画の内容ではない。アメリカ国内で映画を観たファンの言動、そして制作側のファン対応によるものだ。
この騒動は単に映画マーケティングの問題を超えて、少し大袈裟になるが、戦後、日米間に横たわる原爆・戦争感のギャップを改めてえぐり出した形になった。騒動を整理しよう。
北米では『バービー』(ワーナー・ブラザーズ)は「原爆の父」とされる米理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの伝記映画『オッペンハイマー』(ユニバーサル)と同時に公開された。
そのため、シネコンに行けば同日に2本をはしごできることから、SNS上では上半身ピンク(バービー色)、下半身ブラック(原爆がらみ?)の男性や、黒のドレスをサラリとめくると裏地からピンクのドレスが現れる変装女子など、2本の映画にちなんだファッションなどを自慢する動画が次々と投稿されることとなったのだ。
その投稿に共通しているのが両映画の題名を合成した#Barbenheimer(バーベンハイマー)のハッシュタグだ。このタグで検索すると、バービー役の主演マーゴット・ロビーの髪にキノコ雲の映像が組み込まれた画像、夕日を見るようにピンクに染まったキノコ雲に手を振るバービーの画像、オッペンハイマーと思しき男性の肩に笑顔のバービーが乗っかり背後で原爆が炸裂する画像などが次々と閲覧できる。
ネット上のこうしたフェイク画像や書き込みに、ワーナー本社による『バービー』公式X(旧ツイッター)アカウントが、「(キノコ雲の髪をセットした)こちらのケン(バービーのボーイフレンド)は立派なスタイリストだね」、「(キノコ雲が)思い出に残る夏になるね」などとコメントしたのは7月21日のことだった。