12歳で経験した戦争体験を色濃く反映

角川映画は続けて森村原作の『野性の証明』(1978)を発表。こちらは原作のラストの後に映画独自のクライマックスを設ける趣向で「映画は原作をしのげるか」という、これまた挑戦的なコピーで全国を席捲した。

それにしても『人間の証明』が戦後の闇を背景に親子の絆を濃厚に照らしてゆく悲劇であり、『野性の証明』は陸軍中野学校のような特殊部隊が現代の日本に存在したら、というポリティカル・サスペンスであったが、いずれも戦争の惨禍が基軸となっている感もある。

これは森村が12歳で日本最後の空襲と言われる熊谷空襲を体験していることもひとつの大きな起因となっているようで、1981年には旧日本軍第731部隊の蛮行を暴露した『悪魔の飽食』を発表。

これがセンセーショナルな話題となり、『戦争と人間』シリーズや『華麗なる一族』などで知られる反骨の巨匠・山本薩夫監督のメガホンで映画化が発表されるが、間もなくして山本監督は死去し、企画は立ち消えになってしまった。もしこれが映画化実現していたら、日本映画の歴史もまた大きく変わったことだろう。

ドラマ作品として数多くシリーズ化

この後、森村誠一小説の映画化は不思議なことに2007年の『蒼き狼~地果て海尽きるまで~』(原作は『地果て海尽きるまで 小説チンギスハン』)までない。しかしテレビドラマ化は圧倒的多数で、特に『人間の証明』の主人公・棟居刑事シリーズは2時間ドラマなどで数多く映像化されては好評を博した。また『人間の証明』そのものも映画化の後で4回ドラマ化されている。

なお『人間の証明』『野性の証明』と並ぶ「証明」3部作の1本で唯一映画化されなかった『青春の証明』も、1978年に『森村誠一シリーズ』の1作品としてドラマシリーズ化された(映画版『人間の証明』『野性の証明』の佐藤純彌監督は、小説の「証明」3部作で最も好きなのは『青春の証明』だが、大河的な展開なので2時間前後の映画にするのは難しいと語っている。角川春樹も同様の発言をしている)。