総勢200人の大乱闘

俺はムカつきながらも心を落ち着かせ、「いつも通りやるだけだ」と自分に言い聞かせてなんとかネタを続けた。だが、先ほどよりもさらに空気が悪くなっているのだから、誰も笑ってくれない。早く自分の出番が終わるように祈った。

その時、事態が動いた。しつこく俺に絡んでくる奴らが座るテーブルに、これまたイカつい顔をした4人の男たちがやってきた。俺はヤジの加勢に来たのだと思い、さらなる事態の悪化を恐れたが、何かが違った。

「さっきから何をケチつけとんねんボケ!」

どうやらその4人は主催者側の人間で、先ほどから俺にいちゃもんをつけるふたり組に腹を立てていたらしい。

客をもてなそうと主催者が呼んだ芸人を「面白くない」とヤジるのは、主催者側からしたら自分たちの顔に泥を塗られているのと一緒なのだ。

「おら!」「なんやこら!」大声で揉め始めたテーブルを見ないようにしてネタを続けたが、周りの客もそちらのテーブルに目が行って、俺のステージなど誰も見ていない。あれよあれよという間にステージの前のテーブルには、ミツバチのように男たちが集まり、さらに増えていく。

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やがて、乱闘が始まった。最初は止めようとしていた者も、やはり血がうずくのか、気がついたら乱闘に参加している。そして。200名ほどの貸し切りパーティーの参加者は、ごっそりと外へ出ていってしまった。

一気に静まり返った会場で、俺はエルヴィス・プレスリーの『監獄ロック』を歌いながら、文字通り「囚人たちの乱闘」になってしまったなと思った。

こんな事態になってしまったが、こちらも仕事だ。持ち時間をやり切るしかない。次の先輩芸人に「なんかすいません」と伝えると「営業はいろんな現場があるから大丈夫だよ」と言ってくれた。こんなことがよくあるのかと思ったのを覚えている。

先輩たちは、さすがベテランらしく鉄板ネタを引っさげて、残された円卓のテーブルにいた主催者の社長さんを笑わせにいった。しばらくすると、客席にみんなが戻ってきた。揉めごとがどう収まったかわからないが、最前列でヤジっていたふたりの姿はなかった。



文/TAIGA  サムネイル画像/吉場正和

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