プロが見せるステージ勉強になったが、自分ではない人にピンスポットを当てる日々

迎えた初日。出勤すると、サラリーマンにしか見えない恰幅のいい男性が俺に近づいてきた。店長は第一印象通りの優しい人柄で、丁寧に仕事を教えてくれた。水商売をひととおり経験してきた俺にとって、仕事を覚えるのはさほど難しいことではなかったし、先輩たちともすぐに仲良くなった。

ショーが始まるのが19時30分で、出勤は15時。ホール掃除から始まり、前日に洗った皿やグラス、ボトルをテーブルに並べ、トイレや楽屋を掃除して、電話でお客さんからの予約を取り、あるいは店のシステムを説明したりと意外に忙しい。

今では開店前から行列ができる人気店となったキサラだが、当時は18時に店のドアを開けても誰もいなかったから、俺やアルバイトはビルの下に降りてチラシ配りをするハメになる。

客は少なくても、プロが見せるステージは、やはり勉強になった。ネタの見せ方、なんてことない客とのやり取り、それらすべてが新鮮だった。彼らにピンスポットを当てながら、自分もいつかあのステージに立ちたいと思っていた。

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やることは単純だから、数週間もすれば仕事のコツもわかってくる。店長や社員、アルバイトの子たちと飲みにいくようになったのもこの頃だ。

営業が終わり、片付けが終わるのが深夜0時。タクシー代なんて持ち合わせない俺たちは、電車が走る朝まで飲むことになる。当時はまだ20代で体力があったから、昼まで飲むことも多く、寝坊して怒られたこともあった。解散してみんなと別れ、駅まで必死に辿り着いたら、新宿から小田急線の始発に乗る。

だが、寝過ごして小田原まで行ってしまうなんて日常茶飯事だった。「やっちまった!」と上りの新宿行きに乗ったら、また寝過ごして、気がつけば新宿で、家に帰るのも面倒になって、カプセルホテルで仮眠をとって仕事に向かった日もあった。

文/TAIGA サムネイル写真/吉場正和

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