フジテレビからの一方的な契約解除
――本の中では、何度も「あきらめるな」と呼びかけ、何かを選択するときは「どうすれば多くの人たちの感動や興奮を呼び起こすことができるか」を考えるのが指針だと書かれていました。一方、志半ばで断念しなければならないときもあると思いますが、撤退の基準のようなものはあるものですか。
これ、というのはないですね。撤退するときは、いろんな要素が絡み合っているから。確かに攻めていくだけでは、ものごとが前進しないときはあります。2007年、PRIDEをUFCに売却したときがそうでしたね。フジテレビに契約を一方的に解除され、理不尽な形で社会的な信用も失った。
でも、自分を信じてついてきてくれた社員や選手たちの未来を考えたとき、自分が退いて、PRIDEの存続を図るしかないと思った。あのときは、自分の体に矢が何本も刺さって、もうこれ以上突き進んでもどうにもならないなと思った。だから、基準というより動物的な感覚だよね。このまま行ったら生命を失うだけだぞ、という。
――世の中では「お金がすべてではない」という言い方もありますが、それは実際に大金を得たとき、そう思えた人にしか言えないセリフだと思うんです。でも、榊原さんはそれを実際に経験していますよね。
PRIDEを売却したとき、めちゃくちゃお金はありました(笑)。一生、暮らしていけるぐらいの。ただね、まったく幸せじゃなかった。服も車も買えるし、飲みにも行ける。でも、そんなことじゃワクワクできないんですよ。
PRIDE時代、みんなでラスベガスへ乗り込んで、アメリカ人が熱狂しているのを目の当たりにしたときに溢れ出たアドレナリンとかね。苦しみ、もがいて、そこから抜け出したときの喜びがたまらないんですよ。何かにチャンレンジしていない人生、何かに夢中になれていない人生なんて、お金がいくらあっても退屈で仕方ないんです。
(後編に続く)
取材・文/中村計 撮影/村上庄吾
#2 「ホリエモンがフジテレビの経営者になっていたら、テレビ局は変わっていた」RIZINをつくった男が語る「地上波の未来」と「自身の引き際」