韓国での「オルン(大人)」の意味

前章で紹介した『未成年裁判』と同じく、このドラマもまた「大人の意味」を問うドラマである。それは挿入歌のタイトル『オルン(大人)』からも明白である。

成人=大人ではないのは、日本も韓国も同じだ。日本では「大人」という言葉は「大人の男性」「大人の女性」みたいに洗練のニュアンスで使われることが多いが、韓国では社会的責任をともなった存在としての意味合いが強い。

韓国における「大人の意味」については、翻訳家の白香夏さんが挿入歌『オルン』をテーマに書かれたブログ記事を読んで、さすがだなと思った。後半の「オルンという単語は……」以下に言葉の説明がある。

対象年齢はミドルエイジ以上。尊敬に値する人格の持ち主で、目下のものや守るべきものを守る、責任を果たす、懐の深さを感じさせる、そんな文字通り「立派な大人」を指して〝어른/オルン〟と。引用(https://paekhyangha.com/?p=57697#more-57697

しかしながら現実社会では、年齢は立派だけど中身は大丈夫か?という人が、私を含めて多数なので困ったものだ。このドラマにもそんな「年齢だけのオルン」が大量に登場するのだが、それでも困っている若者や子どもを見たときに、自分の中の大人が発動して、それとともに自身も少し成長する。

このドラマはイ・ジアンという若者の成長物語というよりも、実は大人たちの成長物語としての側面が強いのかもしれない。

たとえば、ドンフンがジアンの祖母の施設入居手続きを手伝うシーンがある。福祉制度の利用方法を知らずに、というよりも制度があることすら知らずに、ひとりぼっちで苦労してきたジアン。

「そんなことも知らなかったのか」

おじさんは驚くことばかりなのだが、教えてくれる人がいないから知ることもできなかった。福祉が必要な人につながっていないのは、韓国も日本も同じだ。

このときのドンフンといえば、会社の権力闘争と妻との関係でズタボロ状態。それでもジアンの手伝いをすることで少しずつ自信を取り戻していく。「気の毒な子を救ってあげたい」「自分はこの子に比べたら恵まれている」─という気持ちとはまた違う、同情ではなく責任、「大人としての社会的責任」である。社会には大人だからできること、すべきことがある。

名作といわれるドラマだが、導入部はとっつきにくい。サラリーマン社会の権力争いや不倫といった、定番の陰惨な話題が続く。しかも主役の二人は「無口」であり、特にIUが演じる派遣社員イ・ジアンの暗さはぞっとするほどだ。

坂本龍一が絶賛した韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』 40代アジョシ(おじさん)たちの成長物語とソウルの南北格差_3
MY MISTER, (aka NAUI AJUSSHI), from left:LEE Ji-eun, LEE Sun-kyun, (season 1, 2018). © Netflix / courtesy Everett Collection

「ちょっと、つらすぎて」と、第2話で見るのをやめてしまったという人の気持ちもわかる。ただ第4話ぐらいからドラマの人間関係が一気に広がり、第6話からの逆転劇が始まるともう止まらなくなる。最終的には序盤の伏線が明らかになることで、2周目の楽しみができる。