主人公は「アジョシ」(おじさん)

ドラマは「人生の重みに苦しみながら生きる『おじさん三兄弟』と、恵まれない環境で傷つきながら育った一人の若い女性が、お互いを通じて治癒されていく物語」(NAVERのドラマ紹介)である。

「おじさん三兄弟」というのは主人公である大手建設会社勤めのパク・ドンフン部長(45歳)と、その兄と弟のことである。3人とも高学歴なのだが、兄サンフンは長期失業中で借金まみれ、弟ギフンは売れない映画監督と、いかにも身近にいそうな人々だ。まったくイケていない三兄弟の中で唯一の期待の星がドンフンなのだが、なぜか彼らの母親は夢見るニートの息子たちよりも、この真面目な次男を一番心配している。

そのドンフンの会社にやってきた派遣社員イ・ジアンは、小学校低学年の頃に両親を亡くし、障がいのある祖母と暮らしてきた。いわゆる「ヤングケアラー」なのだが、彼女のような境遇の人は韓国社会では可視化されない。「身近な三兄弟」とは対象的だ。

ジアンは職場にもかかわらず、ドンフンを「アジョシ」と呼ぶ。

「アジョシ」という言葉は、韓国で暮らすことがあれば、真っ先に覚える単語の一つだろう。下宿のアジョシ、不動産屋のアジョシ、クリーニング屋のアジョシ等々……、韓国の街はアジョシにあふれている。しかし、会社の上司は「アジョシ」ではない。

坂本龍一が絶賛した韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』 40代アジョシ(おじさん)たちの成長物語とソウルの南北格差_2
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「アジョシではなく、部長さんだよ」

社会人1年生のジアンに、ドンフンがそう諭すシーンは印象的だ。

アジョシの意味は日本語の「おじさん」とほぼ同じである。使われ方は大阪の「おっちゃん」に近いかもしれない、と思ったこともあるけれど、映画『アジョシ』(2010年、イ・ジョンボム監督)のウォンビンのような「若くてカッコいいアジョシ」もいる。

冒頭に書いたように「私のおじさん」というタイトルに不純なものを感じたという人も多いそうだから、韓国のアジョシはおっちゃんよりはもう少し広範囲に、「大人の男性」全般を指す言葉ともいえる。

いずれにしろ韓国でもアジョシという言葉そのものには性的意味合いは一切ない。ただ、冒頭で述べたように中年男性の性的蛮行が注目された時期だっただけに、早とちりの人たちは「派遣社員の若い女性と上司である部長の不適切な関係。しかも年齢差24歳とは、けしからん!」となってしまった。

ちなみに韓国では年齢に「数え年」が使われることが多い。イ・ジアンは21歳となっているが満年齢では19か20歳。ちょうど成人を迎える年である。つまり法的には「成人」になってはいるが、これから「大人」になっていく年齢といえる。