「小さなこともできません」!?
初めての選挙戦は、失敗の連続です。何しろ選挙運動の経験がない素人ばかりの寄せ集めですから、うまくいくはずがありません。
ある日の朝8時。大きな駅の前で選挙カーの中から支援を呼びかけます。車には私と妻のヘレン、運転手さんとウグイス嬢が2人、それに私のマネージャーがマイクを調整するミキサー役として乗り込んでいます。
ウグイス嬢も初めての選挙運動なので緊張していたようです。
「おはようございます。西川きよしでございます。立候補するのは今回が初めてでございます。初めてなので大きなことはできませんが、小さなこともできません……」
極度の緊張状態に置かれた人間は、思いもかけないことを口走るものですね。
お嬢さんはすっかり恐縮してしまい、「すみません」「ごめんなさい」と謝っています。
そこで私が慰めます。
「大丈夫。間違いは誰にでもあることだから気にしないで。でも、ここはちょっと恥ずかしいから次の場所に移りましょう」
じつはこのやり取りがマイクを通じて車の外に全部流れていたのです。いまとなっては笑い話ですが、思い返しただけで赤面してしまいます。
「小さなことからコツコツと」はそもそも、次のような訴えの中で生まれたフレーズです。
「わたくし西川きよしにとって今回が初めての選挙です。初めてですから大きなことはできません。空港や高速道路を作ったりということはわたくしにはできません。でも、そんな西川きよしにも、福祉の領域ではできることがあるはずです。大きなことはできませんが、小さなことからコツコツと頑張っていきます」
特に原稿を準備したわけでもなく、ふと口をついて出た表現なのですが、周囲のみんなが
「ええ言葉じゃないですか」と言ってくれて、いつしか私のキャッチフレーズになりました。
なんだか不思議な気分です。
でもこれ、二宮金次郎さんも言っているんです。「積小為大(せきしょういだい)」といって、小さなことも積み重ねていけば、いずれ大きなことを成し遂げることができる──という意味なんだそうです。
文/西川きよし
写真/吉本興業提供、photoAC
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