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「過去の自分と線で繋がっているわけではないから、ある時点の自分と考え方を戦わせたり混ぜたりして思いとどまることもある」」今の自分は最新だけど、いちばん正しいとは思えない――又吉直樹の“時間と人間”_1
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読者芸人の収録現場は盛り上がらない

――ニシダさんの初の小説集『不器用で』を読んだ率直な感想を、又吉さんから聞かせていただけますか。

又吉 すごく描写がしっかりしていますよね。最近の小説では端折られてしまうような表現もちゃんと描かれていて、僕が好きな小説でした。それと、取り扱っているテーマや感覚みたいなものがすごく絶妙やな、と。

物語ってだいたいの場合、人間社会で起こること、それが個人的なことであっても他者とのかかわり方であっても、もうすでにシミュレーションし終わっていることをなぞりながら表現のしかたで新しくしていくものが多いと思います。
けど、ニシダくんの小説は、日常の中で起こりうることの中でも「こういうときに人間はどういう感情になるか」というのが実はあまり検証されていなかったような絶妙なところを書いていた。

それと、小説は文章で世界を立ち上げていくジャンルだと僕は思うんですけど、その世界の中でのさらに破れ目みたいなものが一編の中に必ずあるんですよね。「こういうことが人生の中で起きたら記憶に絶対残るやろな」と思うことが起こって、そこからさらに物語が動いていく。そこがすごく面白かったですね。

ニシダ …ありがとうございます。

――ニシダさんは学生時代から又吉さんの作品を読んでいたそうですが、感想をいただいていかがでしょう。

ニシダ
 …緊張してます、すみません、本当に恐縮で…。自分が書いたものに対して又吉さんがコメントをくださること自体がめちゃくちゃありがたいです。ありがとうございます。

又吉 いえいえ(笑)。

――そもそもニシダさんはどういった経緯で小説を書くことに?

ニシダ
 本は昔からよく読んでいて、『アメトーーク!』(テレビ朝日)の「読書芸人」などでそれが知られていったタイミングでKADOKAWAの投稿サイト「カクヨム」の方から「小説を書きませんか」とお話をいただいたのがきっかけです。だから自分から「絶対に書きたいです」と始めたわけではないんですが。

又吉 「読書芸人」、若い世代に変わって続いてますよね。始まったとき、僕がやらせてもらったんですよ(第1回放送:2012年2月)。プロデューサーの加地(倫三)さんがずっとやりたかったけど人材がいなくてやれずにいたのが、僕がテレビに出始めて太宰や芥川が好きだと言っているのを見て「又吉ならいけるんじゃないか」って思ってくれたらしくて。

それで本好きが集まって収録したら、一緒に出てた出演者の方と加地さんはあまりの盛り上がらなさにビビってました(笑)。僕は収録前は不安だったんですけど、始まったら「テレビで本の話をできるなんてうれしいな」って思ってたんで、全然気づいてなかったんですよね。終わった後、僕以外みんなが震えてて、「あれ?」って。

ニシダ そうだったんですね。今も「読書芸人」は現場が全然盛り上がってないんで、ずっとそうなんだなって安心しました(笑)。昔の回を見ると又吉さんや若林さん(オードリー)、光浦さん(オアシズ)とかすごいメンバーが揃われてるんで、すごい盛り上がってたんだろうなと思ってたんです。

又吉 本を紹介するって、それぞれにみんなが初めて聞く話ですもんね。知ってる話をみんなで共有するものじゃないからなかなか盛り上がりづらいんだと思う。でも、自分より若い世代でああやって本のことをちゃんとしゃべってくれる人がいるのを見てるとうれしいですよ。

「東日本大震災の後、漁で獲れた魚から人間の爪や髪の毛が出てくることがあるという話から着想を」ラランド・ニシダと又吉直樹「抱えきれないものを文章に」_2