三コウ無勝負の記述は江戸時代の書物が初出

「三コウ」とは“コウ”という反復形が3つ、盤上に現れること。
コウとはお互いが打った直後の石を取り合える状態を指し、これによって局面が進行しなくなってしまう。そのため、同形反復禁止としてすぐに取り返してはいけないルールがある。ちなみに、コウとは漢字で「劫」と書き、非常に長い時間を表す仏教用語が当てられている。

単純なコウの形。この場合、白が黒石を取ったあと、黒が同じ位置(取られた黒石の場所)に置いて白石を取り返すことはできない
単純なコウの形。この場合、白が黒石を取ったあと、黒が同じ位置(取られた黒石の場所)に置いて白石を取り返すことはできない


しかし、別のところに一手打てば、再びコウに打つことができる。つまり、コウが3つある「三コウ」の形だと、お互いがそれぞれのコウに順に打てるため、同一局面が反復されてしまうのだ。
現在のルールでは「三コウ」になったら永久に対局が終わらないので、「無勝負」となる。

「三コウ」の出現は極めて希で、数万局に1局ほどといわれている。筆者は四半世紀以上、囲碁観戦記者をしているが、記録に残るプロの碁で“三コウ無勝負”となったのはこれまでで2、3局のみ。めったにお目にかかれない現象なのだ。

そんな珍しい「三コウ」ができただけでも驚きなのに、翌未明に日本史上屈指の大事件である本能寺の変が起こったのだから「三コウは不吉」と言い伝えられることになったのも無理はない。

―――と、多くの囲碁ファンは認識しているが、この伝説を懐疑的に見る研究もある。

囲碁史研究家の徳弘晴彦氏によると「本能寺の変の前日にあった茶会の参加名簿が残されていますが、本因坊算砂、利玄ら碁打ちの名前はありません。『三コウ』となったいきさつは、江戸時代に入ってからの書物にあります」と、残っている棋譜は別の機会のものを引用した可能性があることを指摘している。