バイデンの揺らぎが台湾有事を呼び込む
手嶋 バイデン大統領には、巧まざる〝老人力〟や即興の対応力はあるのですが、台湾政策を転換するに際して欠かせない明確な対中戦略は持ち合わせていないと思います。
佐藤 ロシアのウクライナ侵攻に際した対応も同様ですね。そこには透徹した戦略眼は感じられません。
手嶋 日本のメディアは、ウクライナ戦争の開戦前夜に、バイデン政権は巧みな情報戦略を発動したと賞賛しています。しかし、どこが〝巧み〟なのか、僕には理解できません。機密情報の手の内を明かしたくらいで、稀代のインテリジェンス・マスターであるプーチンを動かすことなどできるはずがありません。同様に、対中国、台湾政策を巡るバイデンの言葉の揺らぎを北京がどう受け止めて、どう行動するのか、先の先まで読んでいるとは思えません。
佐藤 バイデン大統領の東京での発言からおよそ2か月後の2022年8月2日には、当時のナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪れ、中国を大いに刺激しました。
手嶋 ペロシは、国民党政権下の政治犯の拘置所跡である「国家人権博物館」を訪問し、台湾の民主化を絶賛しました。さらには、香港から台湾に逃れてきた書店の店主にも面会するという念の入れようでした。台湾に「自由と民主主義」が根付いていることを様々な形で褒め上げ、中国を批判しました。
佐藤 ペロシの訪問は、中国の台湾侵攻を誘発しかねないリスクを孕んでいます。ペロシは下院議長の退任を見据えて、意図して中国を刺激するために訪台したのですが、台湾の反中国派のなかにも本音では迷惑だと受け取った人たちがいたはずです。