ネガティブイメージの生き物の名前をもらってしまった植物たち

咬まれたら大変!? ムカデラン(百足蘭)

ラン科 ムカデラン属関東以西の太平洋側・四国・九州の、日当たりの良い岩の上や木の幹に着生する常緑のラン。初夏に小さな淡い紅色の花を咲かせる。
ラン科 ムカデラン属
関東以西の太平洋側・四国・九州の、日当たりの良い岩の上や木の幹に着生する常緑のラン。初夏に小さな淡い紅色の花を咲かせる。

ムカデといえば気持ちの悪い見た目と、咬まれたら激しい痛みと腫れに襲われることから、忌み嫌われる生き物。

一方、ランは胡蝶蘭に代表されるゴージャスで美しい花で、愛好家も多い。この2つの名が合体したムカデランとは…?

明治20年、牧野氏は高知県吾川郡吾川村(現・仁淀川町)の仁淀川沿いの岸壁で、謎の植物を発見。茎の両側に短い多肉状の葉がたくさん生えている様子がムカデに似ていることから名付けたのだというが、小さな花はランそのもの。もう少しかわいらしい名前をつけてあげてほしかった。


水中にただよう尻尾、ムジナモ(貉藻)

モウセンゴケ科 ムジナモ属水性の食虫植物で、根は無く池や沼に浮いている。二枚貝のような葉を閉じてミジンコやボウフラなどを食べる。世界的にも稀少な植物で、現在生息地は50カ所程度といわれている。
モウセンゴケ科 ムジナモ属
水性の食虫植物で、根は無く池や沼に浮いている。二枚貝のような葉を閉じてミジンコやボウフラなどを食べる。世界的にも稀少な植物で、現在生息地は50カ所程度といわれている。


ムジナとは、タヌキやアナグマの総称で、日本の民話などでは悪者として登場することが多い。

そんな残念な名前をつけられた藻は、明治23年に牧野氏が東京・江戸川の用水路で「異様な物」が水の中を漂っているのを発見。調べたところ、ヨーロッパやインド、オーストラリアの限られた場所で確認された希少種であることが判明した。

牧野氏は、「まことに奇態な姿を呈している水草」といい、「獣尾の姿をして水中に浮かんで居り、かつこれえが食虫植物であるので、かたがたこんな和名を下したのであった」と随筆の中で語っている。

このムジナモは滅多に花をつけず、咲いたとして開花しているのは1〜2時間ほど。しかも、その花はわずか5㎜と小さく、幻の花と言われている。

『日本植物志図篇』第1巻第12集より 高知県立牧野植物園所蔵
『日本植物志図篇』第1巻第12集より 高知県立牧野植物園所蔵

ここまで、牧野氏が命名した残念な名前の植物を紹介してきたが、「日本の植物学の父」と呼ばれる牧野富太郎氏が〝らんまん〟な笑顔で成し遂げた研究は、今も色あせることはない。

牧野富太郎氏 らんまんの笑顔がよく似合う 写真/高知県立牧野植物園提供
牧野富太郎氏 らんまんの笑顔がよく似合う 写真/高知県立牧野植物園提供
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取材・文/工藤菊香
監修/練馬区立牧野記念庭園
協力/高知県立牧野植物園 
   株式会社北隆館 

★高知県立牧野植物園と北隆館のサイト内で、牧野富太郎生誕150周年共同事業として作成した『牧野日本植物図鑑 インターネット版』が閲覧可能。