ネガティブイメージの生き物の名前をもらってしまった植物たち
咬まれたら大変!? ムカデラン(百足蘭)
ムカデといえば気持ちの悪い見た目と、咬まれたら激しい痛みと腫れに襲われることから、忌み嫌われる生き物。
一方、ランは胡蝶蘭に代表されるゴージャスで美しい花で、愛好家も多い。この2つの名が合体したムカデランとは…?
明治20年、牧野氏は高知県吾川郡吾川村(現・仁淀川町)の仁淀川沿いの岸壁で、謎の植物を発見。茎の両側に短い多肉状の葉がたくさん生えている様子がムカデに似ていることから名付けたのだというが、小さな花はランそのもの。もう少しかわいらしい名前をつけてあげてほしかった。
水中にただよう尻尾、ムジナモ(貉藻)
ムジナとは、タヌキやアナグマの総称で、日本の民話などでは悪者として登場することが多い。
そんな残念な名前をつけられた藻は、明治23年に牧野氏が東京・江戸川の用水路で「異様な物」が水の中を漂っているのを発見。調べたところ、ヨーロッパやインド、オーストラリアの限られた場所で確認された希少種であることが判明した。
牧野氏は、「まことに奇態な姿を呈している水草」といい、「獣尾の姿をして水中に浮かんで居り、かつこれえが食虫植物であるので、かたがたこんな和名を下したのであった」と随筆の中で語っている。
このムジナモは滅多に花をつけず、咲いたとして開花しているのは1〜2時間ほど。しかも、その花はわずか5㎜と小さく、幻の花と言われている。
ここまで、牧野氏が命名した残念な名前の植物を紹介してきたが、「日本の植物学の父」と呼ばれる牧野富太郎氏が〝らんまん〟な笑顔で成し遂げた研究は、今も色あせることはない。
取材・文/工藤菊香
監修/練馬区立牧野記念庭園
協力/高知県立牧野植物園
株式会社北隆館
★高知県立牧野植物園と北隆館のサイト内で、牧野富太郎生誕150周年共同事業として作成した『牧野日本植物図鑑 インターネット版』が閲覧可能。