大手外資系企業の税務を担当する42歳のヒロさんはデートにつながらない

大手外資系企業の税務を担当する42歳のヒロさんは、アプリに登録してからもう1年だがなかなかリアルデートに繫がらず、私が初めてマッチングして会った女性だという。

7年前、妻を癌で亡くし1人で子育てしてきた。息子はまだ中学2年。だが、今、婚活をしないと再婚の機会はないと考えてアプリ登録した。

「でも息子も多感な時期だしもし同居したらうまくいくのか、とか先の先まで考えてしまって、毎日アプリをチェックして『いいね!』をつけて回りながらも、現実のアクションが起こせなかった」

ヒロさんは国立大の法学部在学中に国家試験に合格して、卒業後に今の仕事についた。英語も堪能でエリートと言ってもいいコースを歩いてきたが、家庭環境は波乱万丈だった。

水商売をしていたシングルマザーの母が経済的に苦しくなり、中学生から高校までは養護施設で過ごした。その後、再婚した母に引き取られ大学まで進学したが、義父は酒を飲むと家で暴れた。

会う前から「愛している」「いいね」を連打して終わり…マッチングアプリを長く使ってもなかなかうまくいかない男たちの特徴とは_3

何度も会いながら結果的にプラトニックなお付き合いのまま別れた

「弱視のために職場でストレスを抱えることも多くてその反動なんだと思う。でも大学の学費を払ってくれたし、歳をとった今は恨みはなくなって。むしろ弱視や視覚障害の人たちの気持ちを理解したくなった。ボランティアで何か助けになることができたらと点字の勉強もしている」

忙しい仕事のかたわら勉強を続けて、もうすぐ点字技能士の資格も取れるという。資格講師としてボランティアで子供たちに点字を教えたいという言葉に心を打たれた。

なんて心が広くて真っ直ぐな……。ヒロさんは、私が1年間のアプリ取材で出会った中でも、トップレベルで社会的な意識の高い人だったと思う。

なのに、なぜ何度も会いながら結果的にプラトニックなお付き合いのまま別れてしまったのか。

これは大きな問題だ。

第一にヒロさんのコンプラが完璧すぎて、恋人という領域に進みにくかった。つまり関係も会話も非性的で、個人的な関係に進むには何かが足りなかった。多分、ヒロさんが性的な言葉や行動などを徹底的に排除してくれたおかげで、そういう面での不安感は持たなくてよかったものの、逆に先に進むとっかかりも見えなかったのだ。

結婚を前提としたマッチングをゲットするのは意外に簡単だが、難しいのはそこから「結婚を前提とした恋人」になるまでの過程だ。恋人にならなくていいのなら、ただベルトコンベアに乗って結婚式まで運ばれていくだけなら誰でもできる。極端な例は一昔前の仲人がいるお見合いや結婚相談所のシステムだ。2人の間に恋愛感情が介在しなくても、「……さんが勧めてくれるから」「親も納得してくれるから」という理由で結婚が成立していた。