罪と罰の行き着く先

ドキュメンタリー番組でテレビ画面に映るのは、取材と編集の一つの結果に過ぎない。番組が一つの物語であるとしたら、「放送には100分の1しか出せなかった」と思えるほどに、その取材過程もまた物語に満ちている。けれどその過程が詳らかにされることは少ない。

でももし、私たちが取材活動のリアルな一面を物語ることができれば、結果として私たちが目撃した現場を、そして問題提起したかった内実を、より深く理解してもらえるのではないか。

そんな思いから本書では、単にテレビ番組の内容を再編集するのではなく、取材者自身の物語として再構成し、番組を見ていない人にも読んでもらえる取材記を目指した。新しいエピソードも多く加えているので、番組を見た人の目にも新鮮に映ると思う。

なお、取材記は2人の記者の視点で交互に描くことにした。取材というのは本当に偶然に満ちていて、時にその現実は一人では捉えきれないからだ。取材中、様々な偶然が重なり合ったとき、私たちにはまるで「奇跡」でも起きたかのように感じられたのだった。

一方で、この取材は順風満帆な成功物語どころか、失敗や挫折の連続でもある。そうした取材者それぞれの感情の揺れを、読者のみなさんに感じ取ってもらえたら嬉しい。

そして、日本の刑罰制度や刑務所の運用が岐路に立たされている、今このときに、「日本一長く服役した男」の生涯と、その罪と罰の行き着く先を一緒に見届けてほしいと思う。

これはその取材班の、全記録である。

日本一長く服役した男
NHK取材班 杉本宙矢・木村隆太
震災の教訓はどこへ……ずさんな避難計画で原発再稼働が推進されている実態_2
2023年6月19日
1,990円(税込)
四六判/336ページ
ISBN:978-4-7816-2216-3
男は何故、61年も服役しなければならなかったのか。
更生と刑罰をめぐる、密着ドキュメンタリー。

令和元年秋、1人の無期懲役囚が熊本刑務所から仮釈放された。
「日本最長」61年間の服役期間を経て出所したのは、80代のやせ細った男。
出所後も刑務所での振る舞いが体に染みつき、離れないでいた。
男はかつてどんな罪を犯し、その罪にどう向き合ってきたのか?

一地方放送局の記者2人とディレクター1人の取材班は、男に密着取材を行った。
更生の物語を期待し、取材を進めるものの、一向に態度が変わらない男。
それでも彼らは、この謎めいた男がなぜ服役し、どう罪と向き合ったのか
伝えることをあきらめなかった。
取材班が一丸となって、各々の巧みな取材手法を使い分け、番組制作を進めていった。

度々の全国放送が見送られつつも、
いよいよ放送前日となったある日、取材班に衝撃的な連絡が入った。
その時、彼らがとった行動とは――

「更生」とは。「贖罪」とは。そして「報道」とは。
3年にわたる取材の全記録。
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