法改正でまともな病院がなくなっていく可能性も…
――以前のインタビュー(#2)では、東京には多摩地域に大きな精神科病院があると言っていましたよね?
実は、昨年12月に精神保健福祉法が改正されて、段階的に施行されます。とくにパーソナリティ障害と呼ばれる、性格の歪みからくる精神疾患――法律用語では精神病質と言いますが、それが「精神障害者とは」の文言から削除されたんです。つまり、この国はそういう人たちを精神障害者とする概念がなくなってしまいました。
残るのは昔からある統合失調症と知的障害、ギリギリ薬物依存症だけで、あとは積極的な治療の対象じゃなくなるんです。日本は予防や治療をすることを放棄して、そういう人たちがいる場所だったら被害に遭わないように逃げて行くしかないという風に、決定されたんですよね。これは劇的にやばい事態ですが、みんな言い切りません。だから私はこれからどんどん言っていこうと思います。
――話を聞いているとどんどん悪い方向に進んでいるように思います。
まさしくその通りです。それと、第1巻の【ケース1 精神障害者か犯罪者か】に登場する荒井慎介は、措置入院でも任意入院でもなく、医療保護入院という入院形態なんですが、これも来年4月以降、入院期間は最大で半年になります。彼らは「(病院を)出たい、出たい」と言いますから、そう言われたら、病院側も病状に関係なく「じゃあ退院させましょう」ということが合法的にできる条文ができたんです。
そして、ちょうどそのタイミングに合わせて、八王子市の精神科病院「滝山病院」の調査報道をNHKが行いました。人権侵害の病院だと大々的に報じたわけです。患者さんへの暴力はあってはならないことですが、だからといって、精神科病院の存在自体を否定するようなプロパガンダはどうかと思います。
現実には、精神科病院の職員が患者さんから暴力を受けて大怪我を負っている例も少なくありません。でも、そちらは報道すらされませんよね。
ああやって題材を出して、しれっと法改正に導いていくのは、昔からある厚労省のやり方なんです。でも、いまはもう、精神疾患にまつわる家族の問題や近隣トラブルが周知されてきて、一般市民の方から、「もちろん暴力はいけないけど、精神科病院の職員だって大変なんだ。精神科病院がなくなっては困る」という意見が出ているじゃないですか。