身分や性別より「カネがあれば買える」…
身分制崩壊の始まりとも

確かに、有名な江島(絵島)生島事件(一七一四)も、月光院に仕える奥女中の江島が、代参の帰り、役者の生島と乱行したとして共に流刑に処せられた事件でした。

もっとも江島は、総勢百人を超える女中たちと芝居に立ち寄り、酒宴をしたのであって、江島本人は三日三晩一睡もさせてもらえずに尋問されても「情交は否認し続けた」(山本博文編著『図説 大奥の世界』)そうです。

しかも当人たちが流罪であるのに対し、江島の兄は斬罪、江島に逢い引きの場を提供したとされる者は死罪、その他、処罰された者は数多く、月光院派が大打撃を受けたことから謀略説もあって、果たして当人たちが本当に性的関係を結んでいたかどうかは藪の中です。

江戸時代にも勿論あった歌舞伎界の男色習慣「早朝から夕刻までは舞台を勤め、夜は男の相手」異なる性を演じる“境のゆるい”世界_3

いずれにしても江戸時代、役者は女にも男にも買われていた。

平安・鎌倉時代の白拍子や、室町時代の猿楽者を、囲い者にできるのは男性権力者に限られていたことを思えば、役者の夜の勤めが常態化した承応期から元禄期にかけては、金さえあれば商人なども芸能人を買えるようになったのですから、身分や性別よりもカネがものを言うという意味で公平というか、身分制の崩壊はすでにこのころから始まっていたとも言えます。