島に引っ越して4年間、戸惑うことが多かった…
模索の日々の中、マコトの目にとまったのが、たまたま家にあった大きな夜光貝だった。その貝が、磨くとピカピカに光ることを知っていたマコトは、ホームセンターで買ってきた工具でくり抜いたり、穴を開けたり、磨いたりと試行錯誤するうち、貝の中から出てくる表情に魅了されていったという。
「削ると、中から貝が生きてきた年輪や、自然が作り出した色、模様が出てくる。それが深い深い表情をしている、と彼が言いまして。何か感じとったものがあったようです」(ジュンコ・以下同)
貝からインスピレーションを受け取ったマコトは、会社員を辞め「貝で生きていく」ことを決意する。貝を加工し、ジュエリーなどの作品として制作、販売するのを生業にしようと。
沖縄の海で育った貝の作品作りをするのだから、もっと海辺の、工房にできる建物付きの家を探したところ、一軒目で出会ったのが、現在の浜比嘉島の家だった。
かくして一家は2014年、人口200名程のその古い小さな集落に引っ越し、庭の物置を工房とギャラリーに改装して「かいのわ」を始める。
「那覇も自然豊かでしたが、暮らし方は比較的都市でのそれに近いものでした。でも、26年前まで本島との橋が架かっていなかった浜比嘉には古くから続く伝統的な行事や神事、生活が残っていました。それらの意味を丁寧に聞き教えてもらい、この島の歴史を学んでいくことは、とても興味深いものでした」
しかし当然ながら迷い、悩みもあった。
「島に引っ越した当初は、住民の皆さんとの関係をどう紡いでいけばいいのかわからず、戸惑うこともありました。浜比嘉大橋が架かり、利便性や安全性が大きく向上する反面、人が流出し、伝統が薄れていく。島から消えゆく伝統行事や生活習慣について、どう受け止めるべきかずいぶん悩みました」