「親の老い」がくる

しかし一方で、40歳を過ぎると自分ではどうすることもできない、「思いもよらぬ出来事」が次々と押し寄せ、変化せざるをえない状況に遭遇するのも、また事実です。

例えば、親の変化です。「親に何かあったら……」というのは、私たち世代共通の心配事ですが、「親が老いる」という当たり前が、どのような形で「私」に影響を及ぼすかを想像するのは、とてもとても難しい。

「追い込まれるから必死にやるんでしょうに」──。

以前、私が介護問題について書いたコラムに、こんなコメントをくださった方がいました。その言葉の真意は、自分が「言い訳できない」状況に追い込まれて初めてわかります。自分のことだけ考えて生きていた時代が、妙に懐かしく、それが、実は特別なことだったと身に沁みるのです。

いつだって親の〝変化〟は突然であり、ひとつの大きな変化をきっかけに、次々と予期せぬ変化が起こり、想定があっという間に崩壊します。しかも、「老いる」プロセスは人によりまったく異なるし、日によってもオン・オフがあり、「あれ?問題ないじゃん」と安堵する日がある一方で、目を、耳を、疑うような絶望の現場に直面するのです。

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男性は65・3%、女性は49・3%、ビジネスケアラーは約346万人

「絶望の現場」を繰り返し目の当たりにすると、

・転んで大腿骨を折ってしまったら?
・道に迷って、帰れなくなってしまったら?
・間違って部屋から出てしまったら?

といった不安が容赦なく襲いかかり、やがて「ひとり暮らしを続けるのは無理」という確信に至り、「介護離職」という言葉が頭をよぎる。

「会社を辞めたら最後」「介護離職は、自分の首を絞めることになる」「親のためという考え方は禁物」「公共のサービスをフルに使って、辞めてはダメ!」と、どんなに他人にたしなめられても、自分でも整理し切れない正体不明の感情が押し寄せ、出口の見えない孤独な回廊に足がすくむのです。

介護を理由に離職する人は毎年10万人程度で、約8割が女性です。一方で、働きながら介護をしている人は約346万人。男女別の有業率は、男性は65・3%、女性は49・3%です。いわゆる「ビジネスケアラー(働きながら介護している人)」は、圧倒的に男性で占しめられています。これには隠れ介護者が含まれていない可能性も高いので、実際の数字はもっと多いと考えたほうがいいかもしれません。

最近は「息子介護」という言葉も使われるようになりました。共働き世帯が増え、妻は妻で自分の親の介護がある。独身男性も増えているので、結果的に息子が親の面倒をみるしかない。

しかし、会社と介護の距離は半端なく遠いのです。社員の介護問題と真剣に向き合う企業も徐々に増えてきましたが、多くの企業では介護に冷たい。50歳以上には「できればさっさとお引き取り願いたい」が本音なので、冷たい企業が圧倒的なのです。