ノルマさん、登場

しばらくすると、トラックが停まる音が聞こえた。荷台には、たくさんの荷物が積んである。
「ああ、暑い暑い」と、汗を拭きながら、1人の女性が家に入ってきた。
「あ、ノルマさんですか?」
ぼくの顔をジロリと見る。
「誰だい、あんたは?」
「あ、この間、電話した日本のテレビ局なんですけど」
「なーに、あんた、本当に来たの?」彼女は突然顔を満面の笑みにして、笑い転げた。
「こんなとこまで日本から来るなんて、信じられないねえ」

周りのみんなも、この豪快な笑いにつられて、顔をほころばせている。ものすごいパワーだ。

「ちょうどよかったよ、なんでも聞いてくれ。これから荷ほどきするんだ。あんたたち、ご飯は? ここでは一緒に食べるんだ! みんなに挨拶はしたのかい?」矢継ぎ早に、話しかけられる。
「それよりも、ここまで日本からだと遠かっただろ」
「えーっと、まずですね、ぼくは日本から来てないですよ。メキシコシティに住んでるんです。電話で言ったじゃないですか……」
「あぁ、だから、スペイン語話すのか。日本から来るって言うから、わたし、日本語なんてひと言もわからないからずっと緊張してたんだ」

周りは大爆笑。のどかな風景に笑い声が響いた。この雰囲気、ぼくが昔ビデオで見た、張り詰めた感じとは大違いだった。暖かく、そして、どこまでも純朴な感じ。みんなで集まって、ワイワイやるのが好きな人たち。パトロナス、こんな感じなんだ。

「移民だから助けたわけじゃない」メキシコ全土に名を轟かせるパトロナスが、移民に手を差しのべる“ただひとつのシンプルな理由”_2

「ああ、そうだ、ちょっとこれ」とノルマさんは奥に行って、1冊のノートを取ってきた。
「ちょっとそこに名前書いておいて」

そのノートには〝Prensa(報道)〞とスペイン語で書いてある。取材に来たメディアの名簿ということか。ノートを開いてみると、中身は真っ新だった。

「ノルマさん、これなにも書いてないけど?」
「そりゃそうよ、だって、今日つくったんだもん」そう言って豪快に笑う。
「ボランティアの子たちに言われてさ、記録も残した方がいいよって」
「なるほど。ぼくが、その一番でいいんですかね」
「だって、わざわざ日本から来てくれたんだろ」
「いや、だから……」
「わかってるわよ」そう言って、また笑った。

そして、ぼくはそのノートの一番上に名前を書いた。