「子ども部屋おじさん」には何も問題がない

特徴的だったのが「子ども部屋おじさん」の話である。「子ども部屋おじさん」とは、40歳など中年といわれる年齢を過ぎてなお親元に住み続ける未婚男性を揶揄する言葉である。

元々ネットスラングとして2014年頃から使われていたのだが、2019年『日経ビジネス』において『90万人割れ、出生率減少を加速させる「子ども部屋おじさん」』なる記事が掲載され、バズった。というより、大いに炎上した。まるで少子化や未婚化がこの「子ども部屋おじさん」の責任であるかのような誤解を生むタイトルであり、内容だったからだ。

「かつての親に依存するパラサイトシングルやニートと呼ばれる若者が、自立できずにそのまま中高年化しているのだろう」などと思うかもしれないが、事実からすれば、親元未婚比率が増えているわけではない。親元未婚の絶対数が増えているのは単純に未婚者数が増えているからにすぎず、決して親元未婚が増えたから未婚化や少子化が進んだという因果があるわけではない。

また、そもそも論をいえば、結婚もしていない未婚の子が親元にする住み続けることは昭和の皆婚時代でも当たり前の話で、進学や就職などで家を出た子以外は結婚というイベントではじめて家を出たのである。結婚していない以上そのまま親元に住み続けることに違和感はない。

ネット記事での「働かないおじさん」「子ども部屋おじさん」ワードの多用…おじさん叩きが死ぬほどバズり、読み手もファクトを気にしない理由_2

子ども部屋おじさんは生贄なのだ

さらには、親元に住む未婚者がすべて無業者であるはずもなく、パラサイトでもなければニートでもなく、ましてや引きこもりでもない。そもそも中高年で親元に住む未婚者は「おじさん」だけではなく、「おばさん」もいる。その割合が「おじさん」に比べて「おばさん」が圧倒的に低いわけではない。

親元未婚の比率は男女ともほぼすべての年代で同一である。国勢調査から20-50で比較してみても、男の親元未婚率は60%であり、女は62%だ。なんなら女の方が少し多いくらいである。また、2000年と2020年の親元未婚率を比較しても大差はない。

つまり、事実からいえば、わざわざ「子ども部屋おじさん」などという蔑称を使ってまで大手メディアが報道するようなものではないのである。むしろ事実と反する間違った記事によって、間違った印象を与えかねない点で害悪ですらあると思われる。

なぜこうした印象操作的な記事が出回ってしまうのか。記者や専門家が単に無知だったという理由なら、お粗末ではあってもまだマシだったかもしれない。そうではなく、あえて「子ども部屋おじさん」という言葉を使いたい理由があることこそが危険なのだと思う。

つまり、生贄なのだ。