パワハラ度合をランク付けした「恐竜番付」の中身

それを証明する術すべは無いに等しいものの、一つだけ、想像を逞たくましくする方法がある。財務省内に流布されてきた、パワハラ度合をランク付けした「恐竜番付」である。2013年版の「新恐竜番付」を見ると、小野は西の前頭八枚目に登場している。

若手官僚の有志が作成したとされるこのパワハラ番付は、横綱、大関、関脇、小結、前頭と、大相撲の番付表を真似て作成された。上には横綱、大関などがいるわけで、前頭八枚目をどう評価するか微妙なところだが、前頭のちょうど真ん中に顔をのぞかせたということ自体、部下からはそれなりに怖い存在と見られていたのは間違いない。

事件後にマスコミに載った小野評は、「熊本の神童」「温厚な人柄で人望は厚かった」「酒は好きだが、乱れることなく寝てしまうタイプ」―など、好意的なものがほとんどだった。筆者が直接聞いた後輩の評も、「寡黙で派手さはないが、上司におもねらず筋を通す人」で、大きなブレはなかった。そんなポジティブな評価と、恐竜番付のネガティブな評価―二つの間に横たわるギャップの謎が解けて初めて、事件の本筋に迫るのが可能になるのかもしれない。

筆者の感想で言わせてもらえば、「前頭八枚目」というポジションは非常に解釈が難しく、この辺りから下位は作者の好き嫌いがかなり交じっていると思わざるをえない。ある時期一緒に仕事をして嫌な目に遭ったとか、作者の個人的な体験が前面に出て、必ずしも省内の共通認識を反映しているとは断言できないからだ。そう言っては謎解きからますます遠ざかってしまうが、独断の批判を覚悟で筆者なりの受け止め方を書いてみたい。

テレ朝記者セクハラ、電車で殴る蹴る…なぜ最強官庁・財務省では非常識な不祥事が相次ぐのか…若手官僚によるパワハラ上司ランク「恐竜番付」の中身とは_4
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それは、予算や税金など国民生活に直結する事務を扱う財務省により強く表れる傾向だが、とりわけ財政政策は政治家の間で積極派と再建派の二つに分かれ、両者の板挟みになって根回しに苦労するケースが多い。葛藤の繰り返しのなか、幹部に昇れば昇るほど抱える苦悩も肥大化していき、そうした深層心理が泥酔状態にあって無意識のうちに爆発してしまったのか。その発火点を「心の闇」と呼んでいいか多少のためらいはあるものの、そうとしか考えられないのが事務次官を目前にした小野の不可解な事件であった。

ところで、小野のその後の処遇にも触れておこう。
暴行容疑で現行犯逮捕されたあと、東京区検から傷害罪で略式起訴された。この間財務省は小野を大臣官房付とし、減給10分の1(9ヶ月)の懲戒処分にした。

事件から半年後の11月18日、被害者との間で示談が成立したのを受け、財務総合政策研究所副所長の人事が発令された。研究所長にはすでに一年後輩が就任しており、その下に入る明白な降格人事となった。

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『事務次官という謎-霞が関の出世と人事 』
(中公新書ラクレ)
岸 宣仁 
2023/5/10
1012円
280ページ
ISBN:978-4121507945
「事務次官という謎」を徹底検証!

事務次官、それは同期入省の中から三十数年をかけて選び抜かれたエリート中のエリート、誰もが一目置く「社長」の椅子だ。
ところが近年、セクハラ等の不祥事で短命化が進み、その権威に影が差している。官邸主導人事のため省庁の幹部が政治家に「忖度」しているとの批判も絶えない。官界の異変は“頂点”だけに止まらない。“裾野”も「ブラック」な労働環境や志望者減、若手の退職者増など厳しさを増す。
いま日本型組織の象徴と言うべき霞が関は、大きな曲がり角を迎えているのだ。事務次官はどうあるべきか? 経験者や学識者に証言を求め、歴史や法をひもとき、民間企業や海外事例と比較するなど徹底検証する。長年、大蔵省・財務省をはじめ霞が関を取材し尽くした生涯一記者ならではの、極上ネタが満載。

■本書の目次■
プロローグ――霞が関の「聖域」
1章 その椅子のあまりに軽き――相次ぐ次官辞任劇の深層
2章 「名誉職」に過ぎないのか――事務方トップの役割を探る
3章 社長と次官――「組織の長」を比較する
4章 冬の時代――先細る天下り先、激減する志望者
5章 内閣人事局の功罪――幹部人事はどうあるべきか
6章 民間と女性の力――改革なるか人事院
エピローグ――「失敗の本質」
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