平和そうなラストシーン、
本当は「再び戦争が始まる」
降伏条約によって、隣国との戦争は締結。争いのない平和な世界で、ソフィーたち擬似家族は幸せに生きる......というラストに見えるのですが、実はそうではありません。
終盤にサリマン先生が「この馬鹿げた戦争を終わらせましょう」と言ったあと、「雲の切れ間から飛行船が飛んでいる」というカットが入り、カメラが上にパンするとさらにその上をハウルの城が飛んでいるというシーンが入ります。このシーンはソフィーたちのその後を描いた何気ないシーンではなく、再び戦争の時代が来たことをあらわしています。
その根拠にこのカットの絵コンテを見てみると、「とはいえ戦はすぐにはおわらない」と書き込みがされています。
また、さらなる裏付けとして、月刊サイゾーから公開当時の鈴木敏夫のインタビューを紹介します。
***
あなたは、最後のカットをどう見ましたか? 飛行船が飛んでいるでしょ。宮崎駿としては、また新たな戦争が始まってるんですよ。あの飛行船は帰ってきたんじゃなくて、また戦場に向かってるんです。
***
※「 ジブリ鈴木敏夫に物申す!「ハウルはヒーロー失格では?」」(『サイゾー』2005年2月号)インフォバーン
イラク戦争が終わっても次の戦争がまた起きる…宮崎駿が描いた愚かさ
敗戦してもなお、再び戦争を選ぶ。この描写はまさに第一次世界大戦で敗戦したドイツ帝国とまったく同じなのではないでしょうか。
第一次世界大戦で敗戦国となったドイツ帝国は、ベルサイユ条約で莫大な賠償金を払うことになります。その後、民主国家として生まれ変わるのですが、少し経ってその民主国家のリーダーに選出されたのが、かの有名なアドルフ・ヒトラーです。
ヒトラーの独裁によって士気が向上したドイツは、さらに第二次世界大戦でポーランドへ攻め込みます。ハウルの国で起きていることは、第一次世界大戦、第二次世界大戦においてドイツで起きたこととほとんど同じなのです。『ハウル』という物語は、ドイツそのものを描いていると言っても過言ではないでしょう。
宮崎駿はドイツ帝国に似た立場の架空の世界を舞台に、第一次世界大戦を描き、ラストでは第二次世界大戦も暗示してみせました。このことを『ハウル』が影響を受けたというイラク戦争に引き戻して考えると、イラク戦争が終わっても次の戦争がまた起きる。現代においても悲しいことに戦争は終わらない。宮崎駿はその愚かさを描きたかったのではないでしょうか。
普通の人が普通に感じていること、それをそのまま映画にする
先ほどのインタビューで鈴木敏夫はこうも語ります。
***
今、現実世界の戦争はどうなってますか? いろんな戦争が、ある日突然に始まり、ある日突然終わる。そして、すぐにまた始まる。
(中略)
現実の戦争についてだって、よくわかんないよね。特に中東の問題なんて、問題の根っこもわかりにくいし。普通の人が普通に感じてること、それをそのまま映画にするとこうなるんじゃないかってことをもくろんだんだと、僕は思いますよ。
***
※「 ジブリ鈴木敏夫に物申す!「ハウルはヒーロー失格では?」」(『サイゾー』2005年2月号)インフォバーン
サリマンの突然の終戦宣言と唐突な飛行船のカットという起承転結も物語の整合性もまったくないラストには、人々の知らないうちに戦争が始まり、また終わる、人々にはそれを止められないという戦争の理不尽が表現されているのではないでしょうか。