“接待ツール”としても機能するバルサ女子戦チケット
事実、バルサはホーム戦でもチェルシーを圧倒した。結果は1-1のドローだったが、危なげのない注文通りのゲームマネジメントを見せ、合計スコア2-1で女子CL決勝進出を果たしたのである。
最終的な入場者は7万2262人。3階席は最後まで埋まらなかったが、なにせそもそもの箱が大きい。この数字は、今季女子CLの最多観客記録となった。
同カードの第1戦、チェルシーのホーム試合の記者席で、カタルーニャ州最大の日刊紙『La Vanguardia』のエデュルネ・コンセホ記者と交わした言葉が思い出される。彼女は女子サッカー番となって14年のベテランだ。
「普段、バルサ女子チームのホーム戦は小ぶりなエスタディ・ヨハン・クライフで行われているから、集客数の平均は4000~5000人ぐらいかしら。女子チームが完全プロ化したのは2016年。以降、クラブは積極的な投資をするようになったの」
今のバルサ女子はスペイン代表選手を多く抱えているが、ノルウェー、スウェーデン、スイス、イングランド、ブラジル、ナイジェリアといった国からも一流選手を集めている。だからこそ強く、強いからこそ客も集まる。
男子チームがリーグ戦でも国王杯でも優勝できなかった昨シーズンは、「女子チームの試合の方がパスがよくつながって面白い」という声がバルセロナファンから上がったほどだ。
試合後のVIPラウンジで、チケットホルダーの何人かに「なぜわざわざVIPチケットを購入したのですか」と声をかけてみた。女子高校生4人組は「お小遣いを貯めて買ったの」と微笑ましい答え。興味深かったのは小さな子供二人を連れた若夫婦で、「仕事の取り引き相手からプレゼントされたんだ」とのこと。
つまりVIPチケットは、熱心なバルサ女子ファンの自分への御褒美というだけでなく、接待ツールとしても機能しているのだ。2万円超の女子サッカー観戦チケットの存在がサポーターの間で知れ渡っていて、しっかり売れているだけでなく、その席のビジネス利用という文化まで存在していることには驚かされた。
そうこうするうちに辺りがざわざわし始め、係員が人だかりの真ん中を貫くようにてきぱきと導線を作った。そこへ試合後のシャワーを浴びて着替えたばかりのバルサ女子選手が姿を現すや、若い女性ファンから「キャー」という歓声が起こる。
選手たちは客の着ているユニフォームにサインをしたり、スマホでの2ショット撮影に応じたりしながらラウンジを通り過ぎていく。VIPチケットの特典には、こうして選手と触れ合う機会も含まれていたのだ。
客前を通ったプレーヤーはチームの全員ではなく選ばれた3、4人ほどだったのだが、一番人気だったのはやはり一昨年、昨年の女子バロンドール(世界年間最優秀選手)受賞者、アレクシア・プテジャスだ。
彼女は膝前十字靭帯断裂の重傷を負って以来、この試合で10か月ぶりのベンチ入りを果たしている。交流タイムも終わりVIP客が徐々にラウンジを去り始める中、そのプテジャスとの2ショット撮影を叶えた女の子の母親に話を聞くことができた。
「バルサ女子の試合をスタジアムで見るのは1シーズンで2、3回かしら。今日みたいなVIPチケットは確かに高い(子供は半額)けど、男子の試合ほど法外な値段じゃないから何とか買えるじゃない? うちは家族そろってバルサ女子の大ファンなの。去年は(バルサが進出した)女子CL決勝を見るため、一家で(決勝開催地の)トリノまで行ったわ」
羽振りのいい話に聞こえるかもしれないが、この家族はごく普通の身なりで、特段の富裕層といった印象は受けなかった。親子共通の楽しみのため、年に幾度かの贅沢をした感じだ。日本に置き換えると、一家で東京ディズニーランドに出かけるような感覚だろうか。その散財の対象が、バルサ女子なのだ。