男性家庭科教師が増えたら、ジェンダーへの意識が変わる?

——堀内さんは大学で家庭科教師の育成に携わっています。今後の家庭科教師に期待することは何でしょうか。

家庭科教師はいまだに女性的イメージで見られがちな職業なので、「男性家庭科教師」が増加することが、この空気を変えるきっかけになると思っています。

家庭科を学ぶ男子生徒を当たり前とする雰囲気が社会に広まったとはいえ、家庭科教師が男性だと珍しく感じる風潮はまだ残っていますよね。この要因としては、男性の家庭科教師自体が少数で、生徒が男性の家庭科教師に出会いにくい点、家庭科の教員免許を取得できる大学に家政系学部のある女子大が多い点が挙げられます。

そもそも「男性家庭科教師」という言葉自体が「女医」「女流名人」「女性作家」といった表現の逆バージョンです。いつまで私たちの社会は性別にこだわるんだろうと思います。

だからこそ男性家庭科教師の存在は、ジェンダーにとらわれないロールモデルのひとつでしょう。彼らは新しい時代の家庭科の「広告塔」にされてきた歴史もありますが、もうその役割から降りてよい時代だと思います。

これまで私のゼミの修了生や授業を受けていた学生で家庭科教師になった男性は、10名を超えます。2022年度の私のゼミ生は、4年生全員が男子(2名)で、修士課程は1年女子、2年男子でした。

この修士課程を修了した男子学生は、県立高校の家庭科教師として、この4月から教壇に立っています。大人よりも生徒たちのほうが柔軟で、高校の現場感覚としては、「男性家庭科教師」ではなく一人の「家庭科教師」です。家庭科を男女共学で学んでこなかった周囲の大人たちのまなざしが、いつまでもジェンダー・バイアスを作り出しているのではないでしょうか。

技術・家庭科が男女共通になって30年。それでも女性的イメージが付きまとう理由と「男性家庭科教師」が担う大きな役割_4
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——最後に、今まさに家庭を運営している読者に向けてメッセージをお願いします。

家庭科は、料理や裁縫などの家事処理技術の習得を目的とする教科ではなく、よりよい生活を自ら創るための「生活者の基礎教養」を学ぶ教科です。今回の記事で、男女共同参画に伴い推移してきた歴史や現在の家庭科について知ることで、この教科の意義を再発見していただけたら嬉しいです。

もし家庭科を軽視する風潮があるのなら、生きる基盤となる生活そのものよりも、経済発展に意義を見出す社会だからだと思います。女性の社会進出は鼓舞されますが、男性の家庭参画は、せいぜい「イクメン」の推奨止まりです。

もっと「よりよい生活」に自覚的な人が増え、学校教育を通して自分の人生を考える学びの意義を見出してほしいと思っています。このような学びを担う教科が、家庭科に他なりません。コロナ禍の在宅期間中は多くの人が家庭生活に目を向けるようになったと思いますが、よりよい生活は生きていく上での基盤なので、生き方のヒントをたくさん学べる家庭科に関心を持つ人が増えてほしいです。

家庭科教育に対する理解が広まれば、間接的に「男性家庭科教師」が増え、さまざまなジェンダー・バイアスが取り払われることにも繋がるのではないでしょうか。


※参考文献:
堀内かおる編『生活をデザインする家庭科教育』(世界思想社、2020年)
文部省『高等学校家庭指導資料 指導計画の作成と学習指導の工夫-家庭科新時代に向けて』(教育図書株式会社、1992年)

#1「男女共修化までの長い道のり…かつての「男女別の技術・家庭科」に見え隠れする政財界の思惑と性別役割分業に基づく日本社会」はこちらから