故郷の料理をチームで作ることで、新しい家族愛に触れることが出来る。
──移民支援施設に暮らす生徒役としてアジア、アフリカなどいろんな地域、国の子どもたちが登場しますが、それぞれ、映画の中で、監督にこの料理を取り上げてほしいといったアピールなどはありましたか?
「映画の中で、彼らが自分のルーツについて語るシーンがあります。その場面の撮影にあたって、逆に私の方から彼らに、自分の国、あるいは自分の家族の作ってくれた料理について聞きました。そのやり取りを、映画でも紹介しています。私自身、出来上がった映画の中で最も好きな場面で、撮りながら感動を受けた場面でもあります。
撮影にあたって、チームで思い出の料理を蘇らせる企画をして、他のみんなに披露するという場面ですが、家族愛に触れるシーンで、グッときました。劇中ではカティ・マリーも孤児という設定にしていて、みんなで料理を作ることで、新しい家族と、家族愛を互いに作って、その先に進んでいくという重要な場面になったと思います」
──監督が初めて出会ったメニューや、驚いた味として記憶されているものは?
「あの場面では、料理そのものにクローズするというより、料理にまつわる家族の記憶について語ることの方がメインだったんですけれど、もちろん彼らの作った料理を通して、初めての味に出会いました。マティッシュと生徒が言っていたお料理や、ヤダフという青年の作ったエチオピアの郷土料理などです。 米ベースだったり、ジャガイモにスパイスを効かせた料理など、初めて味わうメニューがいくつかありました」
本作は全編通してリハーサルを一度もしていません。ほとんどファーストテイクで構成されています。
──子どもたちはこれまで演技経験がほとんどなかったと聞いていますが、映画ではとても自然な演技をされていて驚きました。カティ・マリー役のオドレイ・ラミーさんと、施設長役のフランソワ・クリュゼさんとの演技とどう組み合わせていきましたか?
「これは私の映画のよくある手法ですが、私の映画ではプロの俳優の方と演技経験がほとんどない方のシナジーを繋げることで、本物らしさが追求できると考えています。プロの俳優さんたちは、非常に注意深く役に取り組むのですが、演技経験のない方たちは、逆に自分のそのままに近い形で役に近づける。
この映画の撮影に関しては、全編通して、リハーサルを1回もしませんでした。ほとんどの場合、ファーストテイクが1番良かったので、本番一発撮りの多い形で撮影を進めていきました」
出演者の中には自国で奴隷にされたり、いろんな暴力でさらされた子も。凄まじい人生を歩んできた彼らから出てきた本音の演技。
──それはすごいですね! 子どもたちのポテンシャルや、即応性を感じさせるエピソードです。オドレイ・ラミーさんは監督の2018年の作品で、ホームレスの女性たちの支援施設を舞台に描いた『社会の片隅で』に続けての出演となりますが、施設長役にフランソワ・クリュゼさんが決まったと聞いて嬉しさのあまり泣いたそうですね。
クリュゼさんは日本でも『最強のふたり』での半身不随となった実在の人物を投影した演技でよく知られますが、このベテラン二人に対して、子どもたちが現場でヒヤヒヤするような言動をとることなどはなかったですか?
「子どもたちは、オドレイ・ラミーさんについても、フランソワ・クリュゼさんについても全く知識がなく、二人を知らなかったわけですけど、それについては全く心配がありませんでした。彼らはフランスに来るまで、非常に厳しい人生を強いられた子どもたちです。自国で奴隷にされた経験を持つ子や、いろんな暴力に晒されたり、利用されたりしてきました。
大海を渡る長旅でやっとフランスにたどり着くという、凄まじい人生を歩んできたので、私としては、そちらのトラウマが演技を通して出て来ないか、彼ら自身の境遇に対しての方が心配で、彼らもオドレイやクリュゼさんにヒヤヒヤする行動をとるような余裕は全くありませんでした。生徒たちは、クリュゼさんのことを、役名のロレンゾで呼びかけていて、オドレイにもカティ・マリーと言っていて、すごくよい関係性が出来上がっていました」