暴力と猟奇犯罪満載のエンタメとして書きました
―― 川原で死亡していた男児は誰なのか。その後、相次いで死体が発見されますが、それらとの関連は。やがて昔ながらの温泉街に隠された、凶悪犯罪の真相が明らかになっていきます。この悲劇は温泉街という特殊な土地でなければ、起こらなかったかもしれません。
そうですね。犯罪は確かに怖いんですけど、もっと怖いのはそれが起こっても気にしない社会の方です。たとえば子どもが平日の昼間からぶらついていてもこの街では誰も注意しないし、住み込みの仲居が突然夜逃げしても誰も探さない。考えてみれば結構大きなことのはずなんですが、慣れてしまうと気にならなくなるんですよ。そういう小さい歪みの積み重ねが、結果的に大きい事件を呼び込む土壌を作ってしまった、という話なんです。
―― 特殊な状態であっても、慣れれば日常の風景になってしまう。とても怖いことですね。
今、日本全国に子ども食堂が何千軒もあって、それが美談のように語られているじゃないですか。これもすごく異様なことですよね。確かに貧困家庭の子にご飯を食べさせるという行為は素晴らしいんだけど、それが当たり前に必要とされる社会はまずい。異様さに慣らされてはいけないんだと思います。
―― 色々お話をうかがっていて、つくづく温泉街の子ども食堂という舞台設定は秀逸だなと思います。当真と慶太郎が起こした立てこもり事件とその結末は、社会に潜むさまざまな問題点を読者に突きつけてきます。
確かに、書き甲斐のある設定でしたね。書き終えて思うのは、これは母と子の話でもあったんだなと。よくひとり親家庭でのネグレクトが問題になりますが、大半の母親たちは好きで自分の子を放っているわけではないと思うんです。食費を稼がないといけないし、住むところを確保しなければいけない。そのために仕事に追われて、どうしても子どものケアが二の次になってしまう。和歌乃の母親がそうですよね。ネグレクトというと母親を責める論調になりがちですが、背後にある女性の貧困や雇用の問題にも目を向けないといけませんね。そういう問題提起を含んではいますが、あくまでエンタメとして書いています。暴力と猟奇犯罪という私の好きな要素が満載なので(笑)、ぜひ楽しんでもらいたいです。