「まだ物語の途中」挑んだ3季目

2022年3月、前回の世界選手権出場後、ふたりは現役続行を迷っていた。

激動のシーズンを過ごした後だった。グランプリ(GP)シリーズのNHK杯では日本勢最高の6位に入ったが北京五輪出場を逃し、四大陸選手権で準優勝も世界選手権は16位に終わっていた。

結成2年目を戦い切り、4年後の五輪は遠すぎ、表現者として他の選択肢もあり、肉体的限界も迫るだけに迷うのは当然だった。

「私は(2022年)世界選手権に、最後の演技かもしれないと、挑んでいました」

村元は神妙に振り返っている。

「もし(高橋)大ちゃんが現役続行しないって決めたら、次のパートナーは探さないって腹をくくっていました。

ただ、世界選手権が終わっていろいろ話して、やり切っていない感がありました。全力は出したんですが、すっきりしていないって……」

彼女は高橋の決断をじっと待った。

「四大陸選手権、世界選手権を戦って終わった後も……第1章を終えていない感じ? まだ、物語の途中のページで」

高橋はそう言って、現役続行の理由を説明した。

「ここでやめてもいいんですけど、(物語を)書き終えていないなって。だから、覚悟をするっていうよりは、もう少し続けられるかなってくらいで。

流されたくはなかったので一回リセットして、スケートから2週間くらい離れて、どんな気持ちになるか。それで気持ちは変わらなかったし、それは『やれ』っていうことかなって」

真剣に進路と向き合ったことで、3年目のスタートは出遅れた。しかし納得して踏み出せたからこそ、彼らはとても初々しく、新緑のようなエネルギーに満ちていた。

「超進化」

そう謳ってきたふたりの挑戦は、3年目で「成熟」に入った。

2年目までは華々しい演技で観客を沸かせた一方、思いがけないミスも出た。出来に波があった。アイスダンスは「減点競技」で、時間をかけて精度を上げる側面が大きく、どこかで粗が出た。

しかし、3年目は違った。