「ハタから見たら痛いオッサンだってわかってます」
しかし、ニュースの中継映像の舞台はその多くが都内。三重に暮らす増井さんには大きなハンデだ。
「だから映り込みのために長年勤めていた三重の会社を辞めて、三重で1か月派遣作業員をしたら、次の1か月は東京で映り込み活動という二重生活を始めたんです。でも、都内活動中の滞在費や宿泊代、食事代はひと月おきの派遣作業の給料ではまかなえず、みるみる貯金はなくなっていきました。お金を下ろそうとして通帳の預金残高が325円になったときは『ああ、終わったな……』とガックリきました」
その後は単発のバイトを増やし、都内で活動する際は川崎駅近辺のトランクルームに荷物を置いて、野宿をする生活に。まだ三重に家があるとはいえ、映り込み生活のために“プチホームレス”となった。
増井さんは母親を18歳の頃に亡くし、5つ下の妹は20年以上前に嫁いだきり会っていない。父は息子の奇行には無関心。恋人は10年以上おらず、とうに結婚は諦めた。お金もない。そんな身の上でもWBCで侍ジャパンが勝利すれば、我がことのように喜ぶ。
実は増井さんは、どこまでもポジティブな男なのではないだろうか。
「ハタから見たら痛いオッサンだってわかっているんです。それでも、『テレビに映ったのを見たよ』と地元の友達から連絡がくるのは嬉しいし、最近は街で声をかけられることも増えてきまして。『あれ? もしかしてテレビによく映り込んでる人ですか?』なんて言われると、この活動を続けてきてよかったなって。貯金もなくなって野宿するハメになりましたけど、一切後悔はありません!」
ちなみに、そんなにもお金がないのにWBCの観戦チケットや、壮行試合の行われた大阪や名古屋への交通費などはどのように工面したのか。
「WBCに向けて貯金はしてきましたが、プロ野球の試合と違ってチケットが高いので厳しかったですよ。ただ、遠征先でも野宿したので滞在費はかかってません。交通費ですか? 青春18きっぷを使って鈍行で行ったので激安でした(笑)」
彼にとっては、今がまさに青春の1ページ……なのか?
テレビに映り込むため、中継現場を求めて、今日も増井さんはさまよう。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班