「ロードショー」の女神たち

ただ、洋画誌としての矜持が完全に失われてしまったわけではない。7月号では『ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛』(2008)の主要キャスト、8月号では同シリーズがようやく主役級に据えた美男ベン・バーンズを表紙にしている。50年以上愛されてきた有名児童文学小説の映画化ゆえに、次の『ロード・オブ・ザ・リング』や『ハリー・ポッター』になると期待されていた。なにより原作が7作もあるため、長寿シリーズになるはずだった。

だが、あいにく作品は凡庸な出来で、ディズニーは第2章をもって配給から撤退。その後、20世紀フォックスが引き継いで『ナルニア国物語 第3章:アスラン王と魔法の島』を配給するものの、こちらも本作かぎりで撤退している。

カスピアン王子を演じたベン・バーンズは、オーランド・ブルームに続くスターとして期待されていたが、映画と同様、反響はいまいちだった。

ちなみに、この時期は『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(2007)や『エラゴン』(2006)、『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』(2004)など、数多くのヤングアダルト小説が映画化されている。いずれもシリーズ化を想定して作られたものの、興行が期待外れだったため、続編は作られていない。

2008年の日本の興行収入ランキングのトップ3は『崖の上のポニョ』『花より男子ファイナル』『おくりびと』(いずれも2008)で、洋画は4位の『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(2008)と9位の『アイ・アム・レジェンド』(2007)のみだ。映画興行において洋画は冬の時代に突入していた。おまけにこの頃のハリウッドは凡作を吐き出していたため、「ロードショー」にとっては推すべき作品もスターも見あたらない。サヴァイヴするための苦肉の策が、ゴシップと日本人タレントの強化だったのかもしれないが、売上は回復しなかった。

なお、12月号のアンジェリーナ・ジョリーが表紙を飾った最後の人物となる。この年も3回もジョニー・デップであったことを考えると意外なチョイスだ。だが、思い返せば、2000年ごろに男優に逆転されるまで、創刊号のカトリーヌ・ドヌーヴからずっと「ロードショー」の表紙は主に女優が彩ってきた。最後にアンジーを選択したのは、せめてもの原点回帰だったのだろうか。

【休刊まであと1号】生き残りをかけて、邦画とゴシップ中心に方向転換した「ロードショー」。しかし回復できないまま、2008年最後の号を迎える。その表紙を飾ったのは、意外にも…?_2
「スターが大好き!」というのはこの雑誌の原点である
©ロードショー2008年12月号/集英社
すべての画像を見る

◆表紙リスト◆
1月号/ブラッド・ピット&アンジェリーナ・ジョリー 2月号/ジョニー・デップ 3月号/ジョニー・デップ 4月号/ニコール・キッドマン 5月号/ジョニー・デップ 6月号/松本潤※初登場 7月号/中央のベン・バーンズ(※初登場)から時計回りに、スキャンダー・ケインズ、ウィリアム・モーズリー、アンナ・ポップルウェル、ジョージー・ヘンリー(『ナルニア国物語』)8月号/ベン・バーンズ 9月号/右からキム・キャトラル、サラ・ジェシカ・パーカー、シンシア・ニクソン、クリスティン・デイヴィス(『SEX & THE CITY』)※全員初登場 10月号/ジェシカ・アルバ&娘のオナーちゃん(掲載なし) 11月号/アンジェリーナ・ジョリー&ブラッド・ピットと双子のヴィヴィアン&ノックス(掲載なし)12月号/アンジェリーナ・ジョリー
表紙クレジット ©ロードショー2008年/集英社