記者勉強会に呼んでもいない菅義偉氏が突然、現れて…

〈放送法と官邸圧力〉「『報ステ』生放送中に番組幹部に恫喝メール」「自民党からも圧力文書」元経産官僚・古賀茂明氏が明かす官邸によるメディア規制の実態_4
菅義偉前総理
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――古賀さんは水面下で菅官房長官の秘書官から直接、圧力を受けていたわけですね。ただ、小西文書を読むと、菅さんの名前はほとんど出てきません。放送法4条の解釈変更に表立って関与しているわけではなさそうですが……

菅さんは露骨に放送法の解釈変更などしなくても、水面下で圧力をかけさえすれば、テレビ局の方で勝手に向こうが委縮や忖度をして、政権批判を自主規制してくれるという手ごたえを持っていたんでしょうね。何と言っても菅さんは凄みがある。

これは岸井さんから直接聞いた話ですが、当時、岸井さんは記者やジャーナリストを集めて勉強会を開いていたんです。ところが、ある日会場に出かけてみると、呼んでもいない菅さんがなぜか座っている。しかも、何か持論でもぶつのかと思っていたら、最後まで無言。そして、散会になるとおもむろに岸井さんのそばにやってきて、『今日は勉強になりました』とひと言だけ告げて帰ってしまう。そんなことが2度続いたそうです。

さすがの岸井さんも「あんな不気味なことはなかった。変なことはしゃべるなよと、無言の圧力をかけようとしていたのかな」とこぼしていました。

――14年3月27日に古賀さんが最後に「報道ステーション」に出演した際、「菅官房長官をはじめ、官邸のみなさんにはすごいバッシングを受けてきました」と告発し、ガンジーの言葉をフリップにして掲げたシーンは印象的でした。

この言葉は、今でもとても有益なことばだと思っています。「あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである」というものです。

これは安倍政権を批判するというより、むしろ今日のマスコミや私たち自身を戒めることばとして掲げたんです。人間は弱いものです。だから、権力に屈して自粛や忖度に慣れたり、「ひとりで声を上げても仕方ない」と諦めてしまいがちです。でも、そうやって声を上げずにいると、知らないうちに自分が変わってしまって深刻な危機や異変が起きていてもそのことに気づかなくなってしまう。そう、ガンジーは警告したんです。

気づけば、テレビ局のトップは政府要人と会食を繰り返し、政府の批判も監視もしなくなっている。声を上げる人々は次々とテレビ画面から消えている。それは私たち一人ひとりにも言えて、防衛費倍増や原発再稼働といった、本来、国民的論議が必要な問題を政権が閣議決定のみで決めても、だんまりを決め込んでいる。

いま日本の報道の自由度は世界71位にまで落ち込んでいます。なぜ、そんなことになってしまったのか? 小西文書にはその疑問を解く材料が詰まっています。その意味で総務省のパソコン内に眠っていた小西文書が公開されたことには大きな意味があったと思っています。

写真/共同通信社 AFLO

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