「家族を殺すぞ」手口が粗暴化するカラクリ
特殊詐欺が凶悪化する異常性を強く感じた田崎さんは、2021年6月から2022年8月にかけて神奈川新聞で連載を執筆。追加取材も加えて再構成し、書籍『ルポ 特殊詐欺』(ちくま新書)にまとめている。
「特殊詐欺」とは一般に、電話などで対面することなく相手を信頼させ、口座振込などの方法で金をだまし取る犯罪の総称である。
2009年に社会問題になり、警察が摘発を強化したことで年間被害額が100億円にまで減少したが、その後再び急増。2014年には年間565億円のピークに至った。
以降は減少傾向にあったが、2022年に8年ぶりに再び増加に転じた。警察庁の発表によれば、同年の認知件数は1万7520件、被害額は361億4000万円(いずれも暫定値)に上る。ただしこれはあくまでも認知されている事案で、実際はもっと多くの被害が出ているとみられる。
2023年1月の認知被害額は約30億円。1日あたり1億円もの金額が特殊詐欺により奪い取られている。
被害は人口密集地である関東圏が圧倒的に多い。また、コロナ禍で増加傾向になった。田崎さんはこう説明する。
「飲食店で働いていた20代前半の女性がコロナ禍でシフトが激減し、お金に困って『闇バイト』とSNSで検索。受け子を数件した後、現場で逮捕された事例がありました。
一度くらいなら大丈夫だという軽い気持ちで闇バイトを始めてしまう、生活に困窮する若年層が一定数いる。実際、加害者として関与する多くは10代から20代です」
闇バイトの入口はだまし文句で塗りこめられ、あたかも気軽に稼げるバイトだと訴えかけてくるという。
そうして借金や困窮で追い込まれている若者が安易に特殊詐欺に加担してしまい、「やめたい」と思ったときにはもはや抜け出せない。
闇バイトを始める前に身分証などの個人情報を指示役に提供しているケースが多く、「ツイッターでお前の免許証の写真をさらす」「家族を殺すぞ」などと脅されるからだ。
冒頭の29歳の男は、「妻と幼い娘を殺すぞ」と脅迫され、愛知、千葉、神奈川と転々とさせられながら矢継ぎ早に強盗を強いられた。まるで指示役の操り人形である。
「特殊詐欺を入口にして、上からの指示がどんどん過激になっていくんです。手っ取り早く“売上”を稼ぐためです。
しかも指示役は、末端からすると会ったこともない人間。でもこっちの個人情報は相手に握られている。
四六時中、『テレグラム』という匿名性の高いアプリで連絡が入り、少しでも返信が遅れたり犯行を拒むと脅され、極限状態に追い込まれる。こうして犯行に及んでしまう構図ができています」