テレビの「文法」からはみ出すものが生まれてきている

金平 そういえば最近、僕が注目している番組があってね。TBSの若手が始めた『不夜城はなぜ回る』というの。ご存じですか?

河野 いえ、知らないです。

金平 『不夜城はなぜ回る』は、若い5年目ぐらいのディレクターが考えてつくっている。深夜12時過ぎとか2時、3時に煌々と明かりがついているところに突然訪ねていくんです。アポなしで「何やってるんですか?」と聞き歩く番組なんだけど。これは、面白い。

河野 へぇー。

金平 押しつけがましさはなく、淡々と自分でカメラ回して話を聞くんですよ。

「登山する自身」をインターネット中継――嘘と真の境界線を生きた栗城史多はYouTuberのはしりだった_6
ジャーナリスト・金平茂紀氏
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河野 それは報道でつくっているんですか?

金平 いや、制作局。彼は報道に1年いて「お前は向いてないんじゃないの」って言われたとか。そういう若者がつくっているのが面白いです。それから、1967年につくられたTBSの『あなたは……』ってあったでしょう。

河野 はい。制作者の勉強会で観たことがあります。

金平 街頭で「あなたは……」とインタビューするだけのドキュメンタリー。67年に寺山修司と萩元晴彦、村木良彦がつくった。それを2022年にもう一回つくり出したんですよ。『日の丸 それは今なのかもしれない』というのが映画にもなりましたけど。街録(街頭録音)だけで、よくこれだけのものをつくるなと思うくらい、本当に面白い。

河野 へぇー、面白そうですね。街録はある意味、取材の基本ですよね。

金平 いま30歳前後の彼らが「ドキュメンタリーとはこういうものでございます」というのをぶっ壊していこうとしている。僕はテレビの文法からハミだすものが出てきたということに可能性を感じています。

 

聞き手・構成/朝山実 撮影/野﨑慧嗣(金平氏) 定久圭吾(河野氏)
 

デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場
河野 啓
第18回開高健ノンフィクション賞受賞作 「夢の共有」を掲げて華々しく活動し、毀誉褒貶のなかで滑落死した登山家。 メディアを巻き込んで繰り広げられた彼の「劇場」の真実はどこにあったのか。  両手の指9本を失いながらも〝七大陸最高峰単独無酸素〟登頂を目指した登山家・栗城史多氏。エベレスト登頂をインターネットで生中継することを掲げ注目を集めたが、8度目の挑戦となった2018年5月21日、滑落死。35歳だった。彼はなぜエベレストに挑み続けたのか? そして、彼は何者だったのか? かつて栗城氏を番組に描いた著者が、綿密な取材で謎多き人気クライマーの真実にせまる。_8
2023年1月20日発売
825円(税込)
文庫判/384ページ
ISBN:978-4-08-744479-7
第18回開高健ノンフィクション賞の受賞作『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』(集英社)の文庫版が1月20日に発売された。2018年に亡くなった「異色の登山家」とも称される栗(くり)城(き)史(のぶ)多(かず)氏を描き、注目を集めた一冊だ。
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