『君の名前で僕を呼んで』(2013)Call me by your name
上映時間:2時間10分/アメリカ=フランス=ブラジル=イタリア
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー
21世紀に国際的に活躍するイタリアの監督の大半はカンヌを始めとする国際映画祭の受賞組だが、1971年生まれのルカ・グァダニーノは世界の映画ファンに支持される形で自らの道を切り拓いた。
最初の長編『ザ・プロタゴニスツ』(1999)はロンドンで映画を撮影するスタッフたちを描いたものだが、ティルダ・スウィントンが彼らを導く役でナレーションも兼ねている。
この無国籍な雰囲気はその後も続き、本作では舞台は北イタリアだが原作はジェイムス・アイヴォリー。演じるティモシー・シャラメはアメリカ人の学者の父とフランス出身の母を持ち、父の教え子の男子大学生に恋をする設定で、英語を中心にイタリア語、フランス語が飛び交う。国境を越えて21世紀のLGBTQを自然に見せる新しいイタリア映画。
『歓びのトスカーナ』(2016)La pazza gioia
上映時間:1時間56分/イタリア=フランス
監督:パオロ・ヴィルズィ
出演:ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ、ミカエラ・ラマッツォッティ
1964年生まれのヴィルズィ監督は、1990年代から集団の中で自由を求めて踏み出す人々をユーモアたっぷりに描いてきた。今回はトスカーナの精神を病む女性たちが住むコミュニティから飛び出す2人の女性が主人公。
イタリアでは精神病院が廃絶されており、この映画のような共同生活施設が多い。セレブ気取りのベアトリーチェ(ブルーニ=テデスキ)は心を閉ざす新参のドナテッラに興味を持ち、彼女と共に施設を抜け出して車で逃げる。アメリカ映画の『カッコーの巣の上で』や『テルマ&ルイーズ』を思わせる大胆で爽快な女たちの物語。
『幸福なラザロ』(2018)Lazzaro felice
上映時間:2時間5分/イタリア
監督:アリーチェ・ロルヴァケル
出演:アドリアーノ・タルディオーロ
1980年生まれの女性監督、アリーチェ・ロルヴァケルは3本の長編がすべてカンヌ国際映画祭に出品され、既に巨匠の域に達している。日常を丹念に描きながらいつのまにか神話的世界に紛れ込む手法は、21世紀のネオレアリズモと言えるかもしれない。
この作品は二部構成で、前半は既に法律で禁止されている小作農制で生きる山奥の農民たちを描くが、中心となるはお人好しで仕事を押し付けられるラザロ。彼の誠実すぎる生き方はふとしたことから警察の介入を招く。
それから十年以上がたって、ラザロはかつての農民たちに再会するが、彼らはヤクザまがいの仕事に従事していた。なぜかラザロだけが昔と同じ風貌で、みんなが抱える問題を次々に解決してゆく。現代における「聖なるもの」を追求した美しい作品である。
『マーティン・エデン』(2019)Martin Eden
上映時間:2時間9分/イタリア=フランス
監督:ピエトロ・マルチェッロ
出演:ルカ・マリネッリ
1976年生まれのマルチェッロ監督はロルヴァケルと同じく、3本しか映画を撮っていないが、彼女に近い魔術的なレアリズモを見せてくれる。
日本で公開された『マーティン・エデン』は、イギリスのジャック・ロンドンの同名小説をイタリアに置き換えたもので、無骨な船乗りのマーティン(ルカ・マリネッリ)が偶然に金持ちの娘に出会い、文学に目覚めて小説家になるさまをロマンチックにかつ象徴的に見せる。
猪突猛進のマーティンのシーンの合間に挿入されるのは、ナポリの人々の生き生きとした姿。さらに禁止された本を焼く焚書の場面などのアーカイブ映像も混じる。それらが「大いなるナポリ」としてマーティンの存在を見守り支える。粒子の粗い16㎜の映像と濃い色彩が目に焼き付いて離れない。
文/古賀太 写真/アフロ
21世紀のLGBTQを自然に見せるティモシー・シャラメの出世作、カンヌのグランプリ作品、ドキュメンタリー初の快挙……21世紀の傑作イタリア映画10選
2月17日に刊行された新書『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』。イタリア映画祭を立ち上げた、著者の古賀太によるイタリア映画の歴史に残る傑作10選を紹介する。
『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』より
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