「あと2万円払え。そしたら終わりにしてやる」
“時間を稼ぎたい”というのには、Aさんなりのこんな考えがあったからだという。
「たとえ5万円を払ったところで脅迫が終わるとはとても思えなかったからです。きっと、その後もカモられるのだろうと。自分の恥ずかしい動画を、女性を含む多くの友人に晒されるくらいなら、みんなに自分から事情を打ち明けるしかないと思いました。
2万円だけ払ったのは、そのための時間稼ぎです。僕はすぐにFacebookとInstagramのフォロワーに『実はこんなトラブルに巻き込まれた。もしかしたら近日中にその動画がDM上に届く可能性もあるが、その動画は開けないでほしい』というメッセージを一斉送信しました」
Aさんはその後、クリスティーンから連絡がきても、無視するつもりだった。しかし事情を知った友人が「指定の金額を支払ったら本当に脅迫は終わるのかどうか、その結末が知りたい。5万円で脅迫が終わるなら、安いもんじゃないか?」と、残りの3万円の半額を寄付してくれたという。
それもあり、この苦しみから解放されるなら、と一縷の望みをかけて満額を支払ったのだが、やはり脅迫は終わらなかった。
「残りの3万円を支払うと、クリスティーンは『お前は昨日5万円払うと言ったろ?』と言い出しました。僕が『昨日すでに2万円払ったでしょう。そして今日3万円払った』と伝えたら、『わかった、だけどあと2万円払え。そしたら終わりにしてやるよ』と言ってきたんです。僕や友人が危惧していたように、満額払ってもこの脅迫は終わらないんだな……と思いました」
すでにクリスティーンとの連絡は絶っているものの、Aさんは、いつ何時、その動画が友人一同にばら撒かれるかわからない恐怖に怯えているという。
「今思えば、いくら恐喝されても最初からお金は払ってはいけなかったと強く思っています。結果的にお金を払っても恐喝は終わらなかったので、即座に相手をブロックして無視すればよかったんです。それ以前に、いくら親しくなったとはいえ、アプリなどで出会った女性の誘いに乗って陰部を露出したりしなければいいわけですが……。ただ一体、世の中のどれだけの男性が、事前知識がない状態で僕と同じ状況にあった時、この誘いを断れるんですかね……」
昨年5月、米カリフォルニア州では、このセクストーションに引っかかった17歳の男子高校生が自らの命を絶つという痛ましい事件も起きた。また、今回のAさんへの要求金額は5万円だったが、これまでに起きた被害事例では数十万円から数百万円ものお金を脅迫されたケースもあるという。
もちろん被害は男性だけにあらず、恐喝犯が男性で被害者が女性というケースもあるようだ。男女ともにさほど親しくない相手とのビデオ通話には十分に注意が必要だ。
取材・文/河合桃子