スキルは問題ない。懸念があるとすれば…

アスレチックス・藤浪の“覚醒”にメジャーのスカウトが太鼓判「こちらには日本にはない長身投手の育成ノウハウがある」_2
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さて、キャンプも中盤になれば実戦が待っている。日本流にいえばオープン戦で、藤浪は先発候補のひとりとしてサバイバル競争が始まるというわけだ。

「最初は中継ぎで2イニング程度のスタートでしょう。そこで結果が出なくても、3回か4回ある登板機会は約束されています。藤波はメジャー契約ですから、すでに日時とイニング数まで球団と合意しているはずです」

「日本時代の藤浪は、制球に難があるというイメージがファンにもありました。ボールが続くと、スタンドがざわつく光景を実際に見たこともあります。でもこちらではほとんどの人が日本時代の藤浪を知らない。そしてキャンプでは結果も要求されない。だから思い切って自分のよさを発揮することだけ、意識すればいいのです」

ただし、藤浪にとってメジャーのすべてが有利に働くことわけではない、と同スカウトはクギを刺す。

「彼は、ピッチングにハッキリとした持論、こだわりがあると聞きます。要するに、人の意見を聞かないということ。アメリカで生きていくためには、持論を持つことは大事なことですが、結果責任もすべて負うことになる。シーズンに入ってからも好結果が続けば問題ないですが、もし不振に陥ったとき、監督やコーチの助言や指標に対して、しっかりと耳を傾けられるかどうか」

そして同スカウトは、こう結んだ。

「もし耳を傾けるなら、成功する確率は高くなると思います。スキル(技術)面は問題なく成功するレベルですからね」
 
藤浪は、今年1月に行われた甲子園球場での移籍会見でファンに向けてこんなメッセージを残した。

「皆さん、うまくいくところ、うまくいってないところ、人生の中でたくさんあると思う。人間、誰しもいい時ばかりではない。ここ数年パッとしなかった藤浪でも『あぁ頑張ってるな』と、ちょっと自分と重ねつつ見ていただければ」
 
アメリカでは「フィニッシュ・ストロング」という言葉がよく使われるという。「最後まで諦めずに頑張る」とでも訳せるだろうか。
メジャー1年目の藤浪が、シーズン終盤の9月にどんな笑顔を見せていることか、楽しみにしたい。

取材・文/木村公一 写真/共同通信社 AFLO