現在、藤井は竜王、王位、叡王、王将、棋聖の五冠を持つ。将棋界には全部で8つのタイトルがあり、残りは渡辺が持つ名人と棋王、そして永瀬拓矢が保持する王座だ。藤井が八冠を獲得するためには、自分の持つタイトルをすべて防衛しながら、上記の3つのタイトル戦で挑戦権を獲得し、さらには奪取しなくてはいけない。

名人戦は現在、渡辺と斎藤慎太郎八段の間で争われている。藤井は順位戦A級に昇級したばかりで、6月から9か月間にわたって9局を指し、そこで優勝すれば挑戦権を獲得できる。そして2023年4月から始まる名人戦七番勝負に勝てば、谷川浩司九段が持つ21歳2ヵ月という最年少名人記録を更新できる。

まずは挑戦権を獲得しなければ話にならないが、A級順位戦はリーグ戦なので実力通りに決着する可能性が高い。藤井とて負けることはあるが、1敗程度なら致命傷にならないのは大きい。藤井が挑戦権を得る可能性は極めて高いと言えるだろう。

鬼門は「王座戦」と「棋王戦」

問題はトーナメント戦の王座戦と棋王戦だ。王座戦は挑戦権獲得まで4勝、棋王戦は最低でも5勝が必要になる。いずれもトーナメント制で、1度負けたら終わりである(棋王戦は準決勝まで進めば敗者復活戦があるが)。

藤井の通算成績は265勝52敗で、勝率は8割3分6厘だ(2022年4月26日現在)。10回に1回から2回しか負けない計算だが(驚異的な高勝率だとあらためて感嘆する)、その負けが王座戦と棋王戦のどちらかに当てはまる可能性は否定できない。トーナメント戦の2つの棋戦で続けて挑戦権を獲得するのは藤井といえども容易ではないのだ。

藤井聡太、全タイトル制覇への最短シナリオとその可能性_1

棋王戦の本戦はまだ先だが、王座戦は4月下旬から開幕する。藤井の初戦の相手は、過去5局指して2勝3敗と負け越している大橋貴洸六段だ。もっとも5局中、4局は藤井が四段時代のもので、タイトル獲得後は対戦がない。それでも注目の一戦であることは疑いなく、まずは王座戦の突破が八冠ロードへの大きなキモとなるだろう。

王座戦は例年9月から10月、棋王戦は2月から3月だ。この2つのタイトルを藤井が奪取し、さらには名人戦の挑戦権も獲得すれば、2023年の4月から6月にかけて行われる名人戦が八冠を懸けた戦いとなる。普通なら妄想レベルの話だが、藤井に限ってはそれは当てはまらない。