一番になれないのなら走らない⁉
――同じように大病をして、再び走ろうとしているランナーにアドバイスはありますか?
一般の人が大病して、もう一度走れるようになったら、タイムは求めなくていい。もう一度走ろうと思ったこと、スタートラインに立ったことだけで充分に凄い。タイムはともかく、どんなレースでも完走したら素晴らしいことですよ。
――今現在、加齢を感じることはありますか?
はい、あります。まず感じるのは以前よりも走るスピードがなかなか上げられなくなりました。明らかに筋力の低下です。あとは、アキレス腱などに痛みが出ることがあるのですが、若い時と違って、なかなか回復しません。
30代、40代の頃なら一度治療に行けば治っていたのに、今は二度三度と通わないといけなくなりました。自己治癒力は確実に落ちています。あとは代謝が落ちているから食べられる量が減りました。
――何歳まで走っていたいですか?
それはいつまでも走っていたいです。現役引退後に教えることを仕事にしてからも、実業団のコーチのときこそ、選手と同じペースで走ることはできなかったですが、市民ランナーを対象としてからは、自分もいっしょに走るようにしてきました。
最近、自分が出演しているテレビ番組に60代女子マラソン最速ランナーの弓削田眞理子さんに出演していただきました。58歳でサブ3、60歳で世界記録を樹立した彼女の努力が凄い。なかなか真似できないと思いましたが、自分は違ったスタイルで、これからも走り続けていきます。
私にとって「走る」ことは仕事でもありますが、これまで生きてきた人生において、一番のベース、つまり土台になっている存在なのです。
――自分の周囲では3大駅伝を走ったようなトップレベルにいた人ほど、現役引退後は走ることをやめてしまっているのですが、その理由は何だと思いますか?
長い間、辛い練習を続けてきたランナーの多くは、現役を引退した瞬間に「解放された!」という気持ちになるでしょうね。だから現役をやめたあとは走ろうという気にならないかもしれません。大学時代の同級生7人のうち、今でもフルマラソンを走っているのは私だけです。
勝負の世界で生きてきたから、負けるのが嫌というのもあるでしょう。トップレベルで走ってきただけに、市民ランナーに抜かれるのは本当に悔しいです。
あとは、スポーツ選手の多くは、いつも一番になることを目指して長年競技を続けてきたから、それが無理だとわかった時点で、ランナーなら「もう走らない!」ということになるのだと思います。
――なるほど。「一番になれないのなら走らない!」というのはトップを目指して子どもの頃から努力を重ねてきたからこそ、そういった考え方になるのですね。自分たち市民ランナーとは全く違ったランニングとの接し方だから、とても興味深いお話です。
取材・文/南井正弘 写真/shutterstock
「ひじき、レバーは毎食。納豆は1日4パック食べていた」五輪金メダリスト高橋尚子が明かす現役時代の「マラソン飯」